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「なまえくん…!…しっかりして下さい、なまえくん!目を覚まして……」

いつもの余裕に満ちたものとは違う、不安と緊迫した感じを孕んだ声に意識を引っ張り上げられる形でなまえは目覚めた。

重たい目蓋を開くと、思っていた以上に間近に観月の綺麗な顔があったので、驚くと同時にドキッとした。

「観月さん…?」

「そう、ボクですよ。良かった……何処か痛かったり気持ち悪かったりしませんか?」

ほっとしたように微笑んだ観月の顔が、また心配そうな表情に戻る。
なまえは混乱したままこくりと頷いた。
どうやら観月に上半身を抱きかかえられるようにして横たわっていたらしい。

「あ、あの、私、」

「ああ、急に起き上がってはいけません。ゆっくり身体を起こして下さい」

慌てて起き上がろうとすると観月が支えてくれた。
視界が動いたことで、周囲の情報も目に飛び込んでくる。
観月の他にも沢山人がいた。
その向こうにあるのは青い海原。
そこでようやく思い出した。
自分がどうなったのかを。

テニス部の合同合宿をやるということで、目的地に船で向かう途中、船が座礁して遭難してしまったのだ。

「みんなは……」

「全員無事だ」

答えたのは跡部だった。
彼の傍らにはなまえの荷物があった。

「ここはもうすぐ沈む。向こうに見える島に移動することになった。動けるな?」

「はい、大丈夫です」

まだ少し足元がふらついていたが、歩けないわけではない。
荷物を持とうとすると、跡部に止められた。

「無理するな。ゆっくりでいい。おい、樺地、荷物を運んでやれ」

「ウス」

「すみません、有難うございます樺地さん」

「ウス」

「観月、こいつはお前に任せる」

「言われるまでもなくそのつもりですよ」

もう腕を回してはいないものの、観月はなまえのすぐ傍らで並んで歩きだした。

「さあ、なまえくん」

「はい」

そういえば、青学のみんなの姿が見えない。
何処にいるのかと見回せば、遠く、ぞろぞろと移動するメンバーの先に手塚の姿が見えた。
次々にボートに乗せて移動させているようだ。
他の青学のテニス部員達も救命ボートに乗っているのが見える。
こちらを見ていた不二と目があった気がするが、そのボートはすぐに遠ざかっていった。

「大丈夫かい?」

観月と共にボートに乗り込むと、すぐ横にいた男性が気遣うように声をかけてくれた。
青みがかった髪に、綺麗に整った中性的な顔立ち。
立海大附属の男子テニス部の部長だ。

「俺は幸村精市。よろしく」

「あ、七瀬なまえです。よろしくお願いします」

名前を名乗り返すと彼はにっこり微笑んでくれた。
本当に綺麗な人だ。

「大変なことになったね」

「まったくです。まさか船が事故に遭うとは予想していませんでした」

ため息をついた観月に幸村がフフと笑う。

「でも、心配いらないよ。皆で協力すればきっと何とかなるさ」

「そうですよね…私も頑張ります!」

「うん、お互い頑張ろう」

幸村が優しく笑ってなまえの頭を撫でた。

「しかし、キミも災難だったね。あんな目に遭うなんて」

「えっ、私どんなことになってたんですか?」

「救命ボートで逃げるとき、赤澤部長のバッグが頭に当たって気を失っていたんですよ」

眉根を寄せた観月が冷たい声で言った。
後ろに真っ黒なオーラが見える気がする。
なまえは青ざめた。

赤澤さん、逃げて!


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