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「聖ルドルフの観月を知っているね?」

不二のそれは質問ではなく確認だった。
たぶん観月と一緒にいたところを見られたのだろう。

「あ、はい」

「彼とはどんな関係?」

「テニススクールが一緒なんです。時々練習に付き合ってくれています」

「そう……」

「不二先輩?」

「彼には…観月には近付かないほうがいい」

「えっ……どうしてですか?」

「彼はキミが思っているような優しい人間じゃない。親切に見えても、その裏には必ず何か計算がある」

「…ごめんなさい、不二先輩」

なまえは不二の言葉をよく吟味した後で、恐る恐る謝った。

「よく分からないけど、不二先輩が私を心配してくれているのは分かりました。でも、私はやっぱり観月さんを信じます」

「なまえちゃん…」

「ごめんなさい。でも、それでもし観月さんと何かあったとしても、絶対にそれもちゃんと自分の責任で受け止めます」

「おかしなことを言ってごめん」

「いいえっ、生意気なこと言ってごめんなさい。心配してくれて有難うございます」

「うん。ボクは、キミを信じるよ」


実のところ、不二の忠告に全く心当たりがなかったわけではない。

テニススクールで初めて観月と会ったとき、彼の紳士的な態度の裏に何らかの計算があることには気づいていた。
いくら同じテニススクールだからといって、ただの親切心から、知り合ったばかりの他校の女子の練習に付き合ってくれるはずがない。

自分が『青学のテニス部の新入部員』だから彼の興味を引き、それが何らかの形で彼の利益に繋がるからだということは分かっていた。


──でも。

たぶん、今でも親切にしてくれているのは、もうそれだけが理由ではないはずだ。

確かに観月は勝つためには非情になれる人間だ。
けれども、ただ計算高くて冷たい人間だというわけではないことも、今はよく分かっていた。

「不二先輩が…」

「不二周助が?」

その名前を口にしたとき観月の声がひやりと冷たくなった。

「えっと、8sの鉛の重りを付けたラケットで素振りをしてたので、やっぱり私もそれくらいのでやったほうがいいのかなって」

「なるほど。そんなトレーニングをしていたんですか」

観月の目が光る。
たぶん頭の中のデータメモに書き加えられたに違いない。

「確かに、彼には有効な練習方法なのかもしれませんが、キミが無理して真似をする必要はありませんよ」

「?どうしてですか?」

「成長期に必要以上の負荷を与えると、筋を違えたり筋肉を痛めたりして、故障の原因にもなります」

「なるほど、わかりました」

不意に観月は何かに気をとられたような表情になり、黙った。
自分自身が言った言葉の内容を吟味しているみたいに。

「観月さん?」

「……いえ、何でもありません」

いつもの優しげな微笑を浮かべて観月が言った。

「心配しなくても、キミにはキミにあった練習方法がある。ボクで良ければアドバイスしてあげますよ」

「はい!お願いします!」


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