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「えっ、はじめさんと一緒に山形に、ですか?」

「ええ。もしキミさえ良ければ、の話ですが…」

そう言う観月の言葉は珍しく歯切れが悪い。

「夏休みと言っても、ボク達は練習や試合がありますし、影響が出ない日程を考えると、精々二泊三日程度といったところでしょう。旅行と呼べるほどのものではありませんが、一応、実家にも顔を出しておこうかと思いまして」

二人が出逢って早5年。
観月は大学に進学し、彼女は高校生になった。

観月としても、彼女と結婚するのは既に確定事項としてシナリオを描いていたし、いつかは家族に紹介しなければならないとも考えていた。
それを、今年の夏休みに実行しようというのである。

実は前々からせっつかれてはいたのだ。
祖父母も両親も二人の姉達も、実家の者達は皆『跡取り息子の未来の嫁』に興味津々で、いつ連れて来るんだ、早く連れて来い、と煩く催促されていたのである。
その度に煙にまいて何とかかわしてきたものの、そろそろ実家の親達も痺れを切らしはじめているようで、最近は電話攻撃も激しくなり、仕方なく「彼女の都合がつけば」という条件で折れることになってしまった。

「嫌ならいいんですよ。無理をする必要はありません」

「いいえっ、是非行かせて下さい!」

「本当に?」

「本当です。うわあ、どうしよう!なんてご挨拶したらいいですか?」

「普通でいいですよ。キミはいつも通りにしていてくれれば、それでいいんです」

変に身構えさせるより自然体のほうがいい。
どうせ、向こうからあれこれ聞いてきて質問責めに遭うのは間違いないのだから。

「持っていく物で、何かこれは絶対必要っていうものはありますか?」

「そうですねぇ…」

「菓子折りは持って行かなきゃですよね。何処のお菓子がいいかなぁ」

「それはボクが考えておきましょう。幾つかピックアップしておきますから、最終決定はお願いします」

「はい!任せて下さい!」

逆にこっちが不安になるくらいの気合いの入りようだ。
遠足に行くんじゃないんですよ、と小言を言いたくなるのを観月は飲み込んで苦笑した。

「その様子なら心配はいらなかったみたいですね」

なまえの身体に腕を回して抱きしめる。

中学時代に比べて、彼女も自分も随分成長した。
少なくとも、なまえの細く柔らかい身体を抱きこめるくらいには。

「ボクも持って行きますが、日焼け止めはちゃんと持って来るんですよ。キミはよく日焼け止めを忘れるから心配です。ああ、それと虫除けスプレーと虫刺され用の薬も必要ですね。去年みたいにお腹を出して寝て風邪をひいてしまうかもしれないから薬も持っていったほうがいいですね。あと、帽子も」

さすがに少し口うるさく言い過ぎたかと口をつぐむと、なまえは無垢な瞳をきらきら輝かせて観月を見ていた。

「はじめさんって、やっぱりお母さんみたいですね!」

「だからどうしてそうなるんですか…」

観月はガックリと肩を落として項垂れた。


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