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ある日の休日。
珍しく街中で見かけたなまえに声をかけようとして、観月は一瞬躊躇った。
彼女がワンピースに透かし編みのカーディガンという装いだったからである。
いつも制服かユニフォームやジャージ姿といったスポーティな恰好しか見たことがなかったため、まるで別人のように感じられたのだ。

もっと正直に言うと、あまりにも可愛くて動揺してしまった。

そうする内に彼女のほうもこちらを見つけてしまったらしく、「観月さん!」と喜色の滲む声で呼んで、ぶんぶん手を大きく振りながら駆け寄ってくる。
ワンピースのお尻の部分で振りきれんばかりに揺れる尻尾の幻影が見えた気がした。

「観月さんもお買い物ですか?」

「ええ、まあ。キミも?」

「はい、お友達とお買い物に行った帰りです」

友達。
こんな風に可愛らしく着飾って会うなんて、どんな関係の。

ふつふつと胸に沸き上がる黒い感情は、あまり認めたくない類いのものだった。

「余裕ですね。てっきり休みの日も自主トレに励んでいるものだと思ってました」

だから、つい意地悪な言い方になってしまった。

「いつもはそうなんですけど、今日はたまには付き合いなさいって連れ出されちゃって。たぶん、気を遣ってくれたんだと思います」

ワンピースなんて久しぶりに着ました、と無邪気に語るなまえに、さすがに罪悪感が芽生えてくる。

「キミでもそういう女の子らしい恰好をすることがあるんですね」

「もうっ、どういう意味ですか!」

「似合っていて可愛いという意味ですよ」

途端になまえは顔を赤くして、うっと声を詰まらせた。

「み、観月さんは、お一人ですか?」

「見ての通りです。キミのお友達はもう帰ってしまったんですか?」

「さっきまで一緒だったんですけど、リョーマ君を見つけて凄い勢いで飛んで行っちゃいました。その子、リョーマくんのファンなので」

「ああ…お友達は女の子だったんですね」

「??はい」

考えてみれば当然の話かもしれない。
彼女くらいの年頃であれば、休日に遊ぶ相手は同性の友人だと考えるのが妥当だ。
加えてテニス漬けの毎日を送っている以上、恋愛にかまけている暇などないはずだ。
彼女も、自分も。
思わず苦笑が漏れた。

「キミ、この後は何か用事はありますか」

「いいえ、せっかくだからもうちょっとお店を見てから帰ろうと思っていたので、特に予定はないです」

「じゃあ、ボクに付き合って下さい」

見上げてくる少女に、優しげに見える微笑を向ける。

「お茶をご馳走してあげますよ」

「はい! うわあ、嬉しいです!」

「たまには息抜きもいいでしょう。テニスでしごくばかりの鬼コーチだと思われていては心外ですから」

「そんなこと思ってませんよ!観月さんはとっても優しい人です」

本当にそうならいいんですけどね、と観月は心の中で苦笑した。


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