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「はじめさん!」

待ち合わせ時間のジャスト10分前。
僅かに息を弾ませて走って来たなまえを、観月は組んでいた腕を解いて迎えた。
前は30分前に来ていたのだが、お互いに相手を待たせまいとしてどんどん早く来るようになってしまうからと、時間前に来るなら10分前まで、と取り決めたのだ。
どちらもまだ待ち合わせ時間に遅れたことはない。

「急がなくていいと言ったのに」

「でも、早くはじめさんに会いたくて」

駆けてきたせいだけではなく頬を染める少女を、素直に愛おしいと思う。
彼は生まれて初めて恋をしていた。

「可愛いワンピースですね」

観月はなまえが着てきた服を誉めた。
華美過ぎず、セクシー過ぎない、可愛らしいデザインのものだ。
丈も丁度良い。
ボレロで肩の露出を控えているのも好ましく思えた。

「去年着ていた花柄のワンピースもよく似合っていましたよ」

「有難うございます!私もあのワンピースはすごく気に入ってたんですけど、今年はもう着られなくなっちゃって残念です」

「着られない?何か問題でも?」

「あの……実は、その……む、胸のあたりがきつくなっちゃってて…」

「そ、そうですか、なるほど」

頬をほんのり赤く染めて俯いたなまえに、観月は男として、そして年長者としてのプライドを保つため、内心の動揺を隠して冷静になろうと努めた。
この子は素直すぎて時々困る。

「キミは成長期ですからね。あちこち成長していても不思議ではありません」

「そ、そうですよね!」

「それに、スポーツをやっていると、どうしても脂肪がつきにくくなるものです。その点を考えてもキミは恵まれているんでしょう」

「そ、そうですよね!」



「…なぁ、あいつら大丈夫か?」

「ダメだね」

「ダメだーね」

初々しいカップルを陰から見守る者達がいた。
赤澤、木更津、柳沢の三人だ。
彼らは建物の看板の陰に隠れながら様子を伺っていたのだが、既にもう砂を吐きそうな甘さに引き気味になっていた。

そんな彼らの前で、観月達は近くの喫茶店へ入っていった。
観月お気に入りの紅茶専門店だ。
赤澤達もこっそり後を追った。


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