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「どうですか、なまえくんは」

「観月先輩が言った通りの子でした。これならうちのエースとしてやっていけますよ」

女子テニス部の部長の言葉に、観月は当然ですと微笑んだ。
観月自身は高校に上がってしまった以上、まだ中学のなまえに自分がいつも傍について指導してやるわけにはいかない。
そこで彼はなまえに関するデータを女子テニス部の部長に預けて彼女の事を頼んでおいたのだ。

「でも、観月先輩。こんな詳しいデータがあるなら、去年の大会の前に教えて欲しかったです。せめて青学の一年生に凄い子がいるって教えてくれればボロ負けせずに済んだかもしれないのに」

「ボクは男子テニス部の人間ですからね。女子のことは管轄外です。負けを人のせいにするのはよくありませんよ」

「相変わらず容赦ないですね、先輩」

「何ですか、今更わかりきったことを」


ピーッとホイッスルの音が鳴り響き、練習していた部員達がさっと集まってくる。
副部長が各自にアドバイスをした後は解散となった。

「お疲れさまです」

観月がタオルとスポーツドリンクを手に声をかけてきたので、なまえは慌てて「有難うございます」と礼を言って受け取った。

「頑張っているようですね。どうです、青学のテニス部と比べて」

「やっぱり練習量が全然違いますね。青学にいたときは、女子は自主トレとスクールでの練習がメインになってた感じでしたけど、ここはすごく充実した練習メニューで頑張り甲斐があります」

「設備も揃っていますからね。キミの力を最大限に引き出せる環境だと思いますよ」

さあ、ドリンクで喉を潤して下さいと微笑む観月に「はい」と笑顔を返し、ストローを咥える。

「ところで、キミは“ぴよちゃん”らしいですね」

「んうぅっ!?」

危ないところで吹き出してしまうのを堪えた。
ストローを離して咳き込むと、観月が優しく背中をさすってくれる。
でも、どう考えても今のはわざとだ。

「さっき聞きましたよ。可愛いニックネームじゃないですか」

「そ、それは…」

「ボクもこれからはぴよくんと呼んであげましょうか」

「や、やめて下さい、はじめさんまでそんなっ、」

はっと口を閉じたものの、遅かった。

みんながこっちを見ている。

「今の聞いた?はじめさんだって!」

友人がニヤニヤしながら別の部員に話しているのを聞いてなまえは絶望した。
観月はというと、満足そうな顔で笑っている。
間違いない。この人わざとだ。
たぶん、前の噂も彼のシナリオ通りなのだろう。

「これでキミに余計なちょっかいを出してくる男子もいなくなりますね」

こうしてまた新たな噂が駆け巡るのだった。


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