第三日曜日。
七海は電車の中にいた。
叔母の家から立海に向かうところだ。

カーブを曲がると、左側の車窓に海が現れた。

筆で青いラインを引いたみたいに、真っ直ぐ水平線が続いている。

(綺麗だなあ)

美しい景色にワクワクしながら進む事5分ほど。電車は立海の最寄り駅に到着した。

海沿いの道を歩いていく。
電車の中からも見えていたけれど、こうして潮風に吹かれながら歩くのはまた格別だった。
ああ海辺の町に来たんだなと実感する。
立海の生徒達はいつもこの景色の中を歩いているのだ。

立海へはそれほど経たずに到着した。
もっと歩くかと思っていたので一安心だ。

まずは入口で外部からの訪問者としての手続きを行った。
事務員に学生証を見せ、クリップボードに挟まった用紙に必要事項を記入して、代わりに渡されたバッジを胸につける。

「えーと、テニスコートは…」

同じく見学者らしき人々がぞろぞろと進んでいたので探さずに済んだ。

七海もそちらへ向かおうとした時、

「七瀬さん」

立海のジャージを肩に羽織った幸村が歩いてきた。
堂々たるその姿に自然と人の波が分かれて道が開ける。

「来てくれて有り難う」

「どういたしまして。私で良かったら精一杯応援するよ。頑張ってね」

「ああ、全力で勝ってみせるよ。君にみっともない姿は見せられないからね」

幸村が振り返って笑う。

「それに、君の友達も来ていることだし」

「えっ」

幸村が見ている方向を見ると、居た。
確かに、友人達の姿がそこにあった。
慌てて隠れようとして失敗したのか、気まずそうにしながら手を振ってくる。

「ずっと君のことを気にしていたからすぐにわかったよ」

「みんなも観に来るなら言ってくれれば良かったのに…」

「いい友達だね」

幸村が言った。

「観戦というのは建前で、本当は悪い男に引っかかってるんじゃないかと君を心配して見に来てくれたんだろう」

「ごめんね、幸村くん…」

「どうして?謝る必要なんてないよ。もし俺の友達が他校の知らない女の子にアプローチされてるって聞いたら、やっぱり相手がどんな子なのか気になるだろうしね。しかもそれがちょっと鈍くて騙されやすそうなタイプの友達だったら尚更心配になる気持ちはわかるよ」

「幸村くん…今さりげなく私のこと鈍くて騙されやすそうって言った?」

「あれ?気が付いた?」

ふふ、と艷やかに笑って幸村は七海の髪を優しく撫でつけた。

「だから、俺から離れちゃダメだよ」


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