「ああ、七海ちゃん。ここにいたんだ」

「あ、不二くん」

「七海ちゃんを探してたんだ」

「……私を?」

「うん。一緒に食べない?」

小首を傾げて微笑む。
そんな仕草さえもが優美で、ああ、本当に綺麗な人だなあと感心してしまう。
そんな彼を遠くから眺めているのが自分には丁度いい距離だと七海は思う。

「いいよ、一緒に食べよう」

「良かった」

不二は七海の隣に座ると、弁当を広げた。

「うわあ、美味しそう」

「食べる?いいよ、何がいい?」

「そんな、悪いからいいよ」

「七海ちゃんのを貰うから大丈夫だよ」

「あ、交換だね。うん、そうしよっか」

「七海ちゃんは何が食べたい?」

「じゃあ、ミートボールちょうだい」

「はい、あーん」

思わず反射的に口を開けると、フォークでミートボールを入れられた。

「美味しい?」

「う、うん…」

「僕は玉子焼きが食べたいな」

「いいよ、自信作なんだ」

「食べさせてくれないの?」

「もう…しょうがないなぁ…」

あーんと口を開けた不二に玉子焼きを食べさせる。

「有り難う。すごく美味しいよ」

「ほんとに?」

「本当に」

ところで、と不二が言った。

「最近、幸村と連絡とりあってるんだって?」

「ああ、うん」

どちらかと言えば、頻度は丸井のほうが高いのだが、確かに幸村とも電話やメールをやり取りしているので七海は頷いた。

「幸村と付き合ってるの?」

「えっ!?まさか!」

七海は首を振った。
そんな畏れ多い、という気持ちだった。

「不二くんでもそういう話するんだね」

何となくからかいたくなってそう笑う。

「不二くんはそういうことに興味ないんだと思ってた」

「高校に上がるまではね」

「えっ、まさかの高校デビュー?」

「クス、そうなるのかな」

「じゃあ、今は好きな人いるの?」

「うん」

これは大ニュースだ。
七海は更に突き詰めて聞いてみた。

「どんな人?」

不二が口を開く。
だが、何か言う前に「わっ!押すなよ馬鹿!」という声が割って入ってきた。
ドサドサッと音がして、開いたドアから、菊丸、乾、桃城の三人が倒れ込んできた。

「あーあ…見つかった…」

「英二」

「な、なにかニャ?」

「今撮ってた動画、僕のスマホにも送ってよ。そしたら許してあげる」

「はは…バレてた…?」

「こうなる確率は88%だった」

「なら止めろよ!!」

「だが、貴重なデータがとれたぞ」

賑やかに騒ぎあう男子を前に、さっき聞きかけた質問は不完全な形のまま七海の頭の奥にしまわれた。


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