青学に通う七海の自宅は当然東京にある。
近県とは言え神奈川まではかなり距離があるが、幸い叔母の家が鎌倉のほうにあった。
叔母の家から立海は驚くほど近い。
学校もだが、皆の自宅も同じ電車で直ぐ行ける圏内にあるようだ。
そのため、試合前日から立海の近くにある叔母の家に泊まらせて貰い、翌日お弁当を作って応援に行く、という計画だ。

「素晴らしい」

「死角のない完璧な作戦ですな」

「これで立海の部長もイチコロだわ」

友人達に練習試合のことを聞かれたのでそう説明すると、ラインで次々とメッセージが流れて来た。

「そう言えば聞いた?テニス部に差し入れダメになったって話」

よくよく話を聞けば、それは事実上の差し入れ禁止令だった。
それならばと、授業と授業の間の時間や昼休みの内に「お裾分け」としてガムなどの食べ物を渡そうとする女子が増えてきたため、今度はそれもなるべく断るようにという話になったらしい。

「もうさ、公式ファンクラブと事務局を作って、差し入れは全部そこを通してくれってことにすればいいんじゃないのかね」

「そしたら今度はその担当者が恨まれたり責任問題だなんだって責められるんじゃない?」

「めんどくさっ!女子めんどくさっ!」

「いや、アンタも一応女子だから」

中学の時はここまで過熱することはなかったはずなのだが、どうしてこんな大問題に発展してしまったのだろう。
友人いわく、「それが中学と高校の違いだよ」ということらしいが、そこまで違ってくるものなのだろうか。

「高校は外部からきた生徒も多いじゃん」

「高校から青学に来てはじめてテニス部を見たって奴らも多いし、去年の試合見てファンになってわざわざ青学を受験したっていう子もいるからね。みんなはっちゃけてる感じなんじゃないの?」

「特にひどいのが外部からの先輩達だよね」

先輩後輩の立場を利用して、後輩である部員達があまり強く出られないのを良いことに、半ばゴリ押しに近い形で差し入れを受け取らせていた事が判明したのだ。
差し入れ禁止令が出るに到ったのも、こうした事例が多く発生したためだったようだ。

七海は不二のことを思った。
あの後こちらが逆に気の毒になるくらい気にしていたし、今回のことでまた嫌な思いをしていなければ良いのだが。


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