第一日曜日。
七海はわざわざ制服を着て学校を訪れていた。
今日は男子テニス部の練習試合があるので、その応援に来たのだ。

クーラーボックスの中には差し入れのアップルパイ。
生地も手作りで、爽やかな酸味と甘さが絶妙な、自分で言うのもなんだがかなりの自信作である。

何故テニスの試合の差し入れにアップルパイなのかと言うと、不二周助に頼まれたのだ。
「どうしても七海ちゃんのアップルパイが食べたい」とお願いされ、戸惑いはしたけれども断る理由はなかったので作ってきたのである。
とは言え、やはりアップルパイだけではなんなので、スライスしたレモンの蜂蜜漬けも一応持って来た。

不二との出会いは高校生に上がったばかりの頃だった。
七海が植えた花壇の花を綺麗だねと褒めてくれたのが最初だ。

「有り難う」

七海は嬉しくなってお礼を言った。

「こんなに頑張って咲いてるんだから、誰かに認めて貰えたら、花もきっと嬉しくなって有り難うって言うと思うよ」

そうだね、と笑った不二がカメラを構える。

「写真、撮ってもいいかな?」

「うん、どうぞ。こんなに綺麗なんだもん。撮りたくなるよね」

邪魔になるからと退こうとしたら、「そこにいて」と柔らかく制された。

そのまま一枚。

花壇をバックに恥ずかしそうに映っている自分の写真を見せられた時は顔から火が出るかと思った。
それなのに、意地悪な彼はその写真を大判サイズにして自室に飾っているというのだ。

お願いだから外してと頼んだ七海に、

「大事な記念だからダメだよ」

と笑った不二は本当に意地悪だと思う。


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