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沢田真奈から雲雀真奈になって初めて迎えるバレンタイン。

純和風建築の屋敷の中、そこだけ最新式の各種家電が揃った近代的な台所で、真奈は愛する旦那様のためのチョコレート作りに勤しんでいた。

「ん……これくらいの甘さなら大丈夫かな」

スプーンで少し掬って味見をしたチョコレートは、真奈の好みよりもやや控え目な甘さになっている。
無論、雲雀の好みに合わせてのことだ。

辺りに漂うのは、チョコレートの香りと濃いお茶の芳香。
今年は宇治抹茶生チョコレートを作っているのだった。
手本にするべくネットで調べた京都の老舗和菓子屋の宇治抹茶生チョコレートは石畳風だったが、真奈はハート型にする予定でいた。

刻んで溶かしたチョコレートに湯で溶いた抹茶を加えたものをハート型の容器に少しずつ流し入れていく。
これでもう後は冷蔵庫で冷やして固めるだけだ。

「いい匂いだね」

「えっ…あ、恭弥さん!?」

後ろから聞こえた声に驚いて振り返ると、まだ仕事中であるはずの夫が立っていた。

「お茶を淹れているんだと思ったんだけど…匂いの元はそれかい?」

「えっと、これは、そのっ」

チョコレートが入った型を伸せたトレイを持ったままだった真奈は慌てたが、雲雀は納得したような顔で笑っていた。

「僕のチョコレートだろ?」

「う……はい」

「帰って来るまでの間に作ろうと思ってたんだね」

「そうです。でも、凄く早く帰ってきたからびっくりしちゃいました。草壁さんに今日は遅くなるって聞いていたのに…」

「ああ、だから哲が焦って引き留めようとしていたのか」

しょんぼりする真奈の頭を撫でながら、雲雀は草壁の慌てぶりを思い浮かべた。
あの手この手で引き留めようとしてあまりにうるさいから咬み殺してしまったのだが、少し可哀想な事をしたかもしれない。

雲雀が早々に帰宅したのは、仕事中にとある面白そうな話を耳にしたからだった。
ボンゴレ関係だから真奈なら詳しい話を聞いているのではないかと思ったのだ。



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