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場所は並盛町の河川敷。
少し冷たい空気の中に、カキン、カキィン、と金属製の棒でボールを打つ音が響いている。

青空の下で汗まみれになって白球を追う少年達は、彼ら以上に青春を謳歌している者はいないのではないかと思えるほど輝いて見えた。
よくある野球部の練習風景だ。

ボールを打っているのが学ラン姿の風紀委員長で、その彼がバットの代わりにトンファーを使っていなければ、だが。

急病で来られなくなったコーチに代わり、山本が以前も特訓に付き合ってくれた事を思い出して雲雀に「また練習手伝ってくんねーか」と打診してきたのである。
もちろんその事を知った部員の誰もがなんてことをするんだと怯えたのは言うまでもない。

トンファーで千本ノックなんてシュールすぎる。
しかも相手はあの雲雀恭弥だ。
最初は思いきり引いて怖がっていた野球部員達も今はそんな事を気にしている様子はない。
否、気にする余裕すらなくなっていた。
滅茶苦茶キツいのである。

「もう終わりかい?この程度でヘバるような野球部ならいらないな」

おまけに雲雀は微塵も容赦がなかった。

「試合でも大した成績を残せないんじゃないの。もっと本気でやらないと廃部にするよ」

「スミマセンっしたッッ!!」

「じゃあ続けるんだね」

「ハイッッ!!」

体育会系らしい返事が上がり、気合いを入れ直した部員達が、再びボールを追って駆けずり回り始める。
土手に体育座りをしてその様子を見学していた真奈は、ちょうどこちらを向いた山本武と目が合った。
笑顔で握り拳を上げてみせる彼は殆ど疲れていないようだ。
凄いなあと真奈は感心した。

「お疲れさまでした」

真奈がレモンの蜂蜜漬けがたっぷり入った容器を持って行くと、地面に倒れ伏していた部員達が「おおっ!!」と歓声を上げて跳ね起きた。
あっという間に周囲を取り囲まれる。
彼らが渡した差し入れに群がっている間に、真奈は雲雀の傍にやってきた。

「恭弥さんもお疲れさまでした。お茶飲みませんか?」

「うん」

二人は並んで土手に腰を下ろした。
魔法瓶からコップにトポトポとお茶を注いで雲雀に手渡す。

「でも、びっくりしました。恭弥さんが野球部の練習のお手伝いをするなんて。てっきり群れてるからって咬み殺しちゃうと思ってました」

「群れること自体を肯定した覚えはないよ」

バッサリ切り捨てる雲雀の口調はあくまでも冷淡なものだった。

「今度の試合で優秀な戦績を残して並中の名誉に貢献するというから、団体競技の性質上、仕方なく黙認しているだけだ」

「そうなんですか」

真奈はあくまでもにこにこと笑顔で応じた。

「…ちょっと、なに笑ってるの」

「笑ってないですよ」

「笑ってるじゃないか」

雲雀に頬を摘ままれ、真奈は「痛いです」と言いながらも笑顔のままだった。

「だって、恭弥さん優しいなぁと思って」

「…そういう事ばかり言ってると咬み殺すよ」

「んぅっ?」

後頭部を手で押さえて引き寄せられ、文字通り咬みつくみたいにキスをされる。
ついでに本当にかぷっと唇を咬まれた。

「きょ、恭弥さんっ」

「お仕置き」

幸い、野球部員達は今度はマネージャーが持ってきた差し入れに群がっていたため、誰もこちらを見ていなかったようだ。
だが、山本武だけは真奈を見て笑顔で手を振っていた。

「ほんと仲良いのな、お前ら」

真っ赤になる真奈の横で、トンファーを手に雲雀が立ち上がった。



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