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並盛中学校の校則は他校に比べれば厳しいものではなかったが、それでもやはり最低限の規則というものは存在する。
頭髪のカラーリングや派手なパーマも禁止事項の一つだ。

雲雀恭弥が今日も登校中の生徒の群れを咬み殺していた最中のこと。
ふと視界の端をよぎった明るい色に敏感に反応した雲雀は、振り返ってその女生徒を呼び止めた。
風紀委員長として、風紀の乱れは見逃せない。

「君、その髪の色は天然?」

「え……は、はい、生まれつきです」

蜂蜜色の髪をした小柄な少女は怯えながらも頷いた。
ビクビクする様子は何だか小動物じみていて、はたから見て分からない程度にほんの少しだけ雲雀は態度を軟化させる。

「ふうん」

髪を染めたり脱色した場合、毛髪の周期の関係で部分的に黒い色が混じったりして、どうしても不自然な印象を受けるものだ。
しかし目の前の少女からはそういった違和感は一切感じられなかった。
眉や、大きな蜂蜜色の瞳を縁取る長い睫毛も、ちゃんと髪と同じ蜂蜜色をしている。
肌も日本人にしては白いし、もしかすると西洋人の血が混じっているのかもしれない。

じっくり少女の姿を検分した雲雀は、どうやら嘘ではなさそうだと判断した。

「本当みたいだね。行っていいよ」

「は、はい。失礼します」

少し先で待っていた友人とおぼしき女子生徒のもとへと小走りに駆け寄っていく彼女の姿を、雲雀は自分でもそうと意識しないまま目で追った。

それが、雲雀恭弥が沢田真奈という少女を個として認識した最初の接触だった。

あれから一年。
並中の会議室で行われている委員会会議に出席していた雲雀は、長テーブルに頬杖をついて欠伸を咬み殺していた。
この会議で話し合う内容といったら、委員会の活動場所の決定や、各委員会と部活動の収支報告といったもので、雲雀にとっては実に退屈極まりないものばかりだ。
時々居眠りしながらも毎回出席しているのは、風紀委員長としての彼なりの責任感によるものだ。



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