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「これでよし。今晩風呂から上がったらガーゼ替えとけよ」

「はい、ありがとうございました」

並盛中学校の保健室。
女子しか診ない事で悪名高いDr.シャマルに怪我の手当てを受けた真奈は、椅子に腰掛けた姿勢のままぺこりと頭を下げた。

窓の外からは運動部のものらしい掛け声や笛の音が聞こえてくる。
弟の綱吉達もまだ校庭にいるはずだが、さすがにここからでは様子は分からない。
怪我をしたときの様子を思い出し、あまり気にしてないといいけどと弟を案じていると、何の前触れもなく突然ガラリと保健室のドアが開いた。

悠然とした足取りで入ってきたのは、左腕の腕章に描かれた『風紀』の文字も眩しい風紀委員長、この並中の支配者雲雀恭弥だ。
今日はいつもの学ランではなくベストを着てネクタイを絞めている。
それが細く引き締まった身体によく似合っていた。
彼は「なんだ野郎か」とあからさまに嫌そうな顔をするシャマルには目もくれず、真っ直ぐ真奈に向かって歩いてくる。

「怪我したって聞いたけど」

「あ、はい。でも、怪我なんていうほど大したことはなくて、ちょっと擦りむいちゃっただけなんです」

「ふうん」

雲雀の涼しげな眼差しがまでの膝頭に注がれる。
そこは白いガーゼで覆われていた。

「痛い?」

「大丈夫です」

「ま、一般的な擦り傷だな。念のため確認したが、足首を捻った様子もないし、心配いらんだろ」

シャマルが消毒薬を棚にしまいながら言った。

「なら問題ないね。じゃあ、行こうか」

「え、何処に?」

「応接室。こんな所にいたら、そこの酔っ払いに何をされるか分かったもんじゃないよ」

雲雀は冷淡に言うと、真奈の手を引いて立ち上がらせた。
咄嗟にバランスが取れずによろけてしまった彼女の身体を危なげなく支える。
行動こそ強引だが、支えてくれるその腕は頼もしく、優しい。
シャマルがピュウと口笛を吹いた。

「お、大胆だねぇ。真っ昼間から不純異性交遊はいかんぞー」

「不良校医がよく言うよ。そんなに咬み殺されたいの?」

「きょ、恭弥さんっ、早く行きましょう!」

不精髭の生えた顎を撫でながらニヤニヤするシャマルがこれ以上雲雀の機嫌を損ねないうちにと、真奈は慌てて雲雀を引っ張って保健室から出ていく。

「真奈ちゃん、今度デートしような〜!」

ドアを閉める間際、そんな笑い声が聞こえてきた。
その言葉に反応した雲雀の秀麗な眉がキリキリと吊り上がるのを見て、真奈は少しでも早くその場を離れようと雲雀の手を引いて小走りに近い急ぎ足で歩き出す。

はたから見れば恐怖の代名詞のような風紀委員長と手を繋いで歩いていく女子ということで、さぞ奇妙な光景だっただろう。
しかし、幸いにも放課後の廊下には他の生徒の姿は見当たらない。


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