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春の季語にもなっている雲雀は澄んだ鳴き声で知られる鳥だ。
別名を『告天子』
または『姫雛鳥』
空高く雲の中で鳴くので雲鳥とも呼ばれる。

天高く舞い上がって鳴くのは、縄張りを誇示する為であるとも、発情期に入った雲雀が恋ふる相手の欲情を誘い昂ぶらせる為に呼び交うのだともいわれている。
その直情的で一途な愛の告白が空に響く下、少年と少女は桜並木を歩いていた。

「今年も桜が綺麗に咲きましたね」

「春だからね」

まるでそれで説明がつくとでも言いたげな少年の口調は素っ気ない。
それは決して少女との会話が嫌だというわけではなく、話題になっている桜がトラウマ級の出来事に深く関わっているせいだった。
かつてはその美しさに人並みに惹かれ、魅せられていたこともあったが、今では忌々しい記憶に繋がるモノでしかない。
どうしても口調や表情が険しくなってしまうのだ。

少女はそれを知っているから、早く桜並木を抜けようと、優しい微笑を浮かべて少年の腕を引いた。
彼女はまるで儚くて優しい花のようだと少年は思う。
そしてそんな彼女は彼にとって何よりも誰よりも愛しい存在だった。


***


「リボーンに聞いたぜ。お前ら付き合ってるそうじゃないか。うまくいってるのか?」

「あなたには関係ないよ」

「関係あるさ。俺は真奈の兄貴分だからな」

自慢げにそう言った男を雲雀はもう少しで撲殺するところだった。

「なんなのそれ。冗談にしては笑えないんだけど」

突然応接室にやって来たディーノは勝手にソファに座って勝手に寛いでいる。
リング戦以来、彼は時折こうして雲雀のもとを訪ねてくるようになっていた。
雲雀の冷たい視線にも堪えた様子もなく、紅茶は出ないのか?などとヘラヘラと笑っている。
不快だ。

「わざわざそんな事を言いにきたのかい?マフィアっていうのはよっぽど暇なんだね」

「おいおい、落ち着けって。相変わらず短気な奴だなぁ」

雲雀がトンファーを構えると、ディーノはやはり笑顔のまま両手で降参のポーズを取った。

「ま、今のは俺の聞き方も悪かったか。悪かったな、恭弥」

まるで歳の離れたやんちゃな弟でも見るような目で雲雀を見て、苦笑に近い笑みを浮かべる。
大人の余裕と言えば聞こえはいいが、要は見下していることにほかならない。
それがますます雲雀の神経を逆撫ですると分かっているのかどうか……。
ことあるごとに兄貴風を吹かせて偉ぶるくせに、この男はどうにも抜けているところがあった。



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