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雲雀恭弥は今日も忙しい。
この時期になると浮かれて風紀を乱す人間が増えるせいだ。

河原でバーベキューをしていたチャラい大学生の群れを咬み殺し、深夜の公園でイチャついていたカップルを咬み殺す。
「いい子にしてないとサンタさんじゃなくてヒバリが来るぞ」といった感じである。
もはや彼は並盛の生ける都市伝説とでも呼ぶべき存在になりつつあった。


「お疲れ様です委員長」

草壁哲矢は、倒したばかりの獲物の傍らに佇みトンファーを振るって返り血を飛ばした雲雀に、ぴしりと姿勢を正して声をかけた。

「後は我々が。どうぞご自分の用事に向かわれて下さい」

雲雀恭弥にとって、弱き者とはすなわち草食動物であり、咬み殺さずにはいられない存在だった。
そんな彼が唯一興味を持ち、大切に想うものは母校だけ。
──だったのだが、今はそこに一人の少女が加わっていることを、草壁はよく理解していたからである。


***


お風呂も入ったし、歯みがきもした。
クリスマスイヴの夜と言っても、就寝前の行動はいつも変わらない。
居候の子供達を寝かしつけている母におやすみなさいを言って、真奈は二階へ上がっていった。

自室のドアを開いた途端、一瞬冷たい空気が流れてきて驚く。
暖めておいたはずなのに。
しかし部屋の中を見てもっと驚いた。
窓の前に雲雀恭弥が立っていたからだ。

「恭弥さん!?」

「やあ」

恐らくは窓から入ったのだろう。
黒い学ランにまだひんやりとした夜の冷気を纏っている。

「真奈、手を出して」

「は、はい。こうですか?」

慌てて歩み寄ると、雲雀はズボンのポケットから何かを取り出し、真奈の手の平の上にぽとりと乗せた。
赤と緑のストライプリボンが巻かれた白い小さな箱だ。

「クリスマスプレゼント」

「えっ…」

驚いた。
まさか雲雀からクリスマスプレゼントなんていう物を貰えるとは思っていたなかったのだ。
思わず固まってしまった真奈を見て、雲雀は微かに首を傾げた。

「恋人にはこうするものだって聞いたんだけど。違うの?」

「ち、違いませんっ」

真奈はぶんぶん首を横に振った。

「まさか恭弥さんがプレゼントを持ってきてくれるなんて思わなかったから、びっくりしちゃって…」

「らしくないって言いたいのかい?」

やや不貞腐れたように雲雀はそっぽを向く。

「こういうのは君にだけだよ」

「ありがとうございます、恭弥さん。すごく嬉しいです!」

嬉しそうに微笑みかけた真奈に雲雀も口元を綻ばせた。
込み上げてくる衝動に素直に従い、手を伸ばして少女の柔らかい頬に触れる。
真奈は気持ち良さそうに目を閉じて、雲雀の手に頬をすりよせた。
そんな仕草も小動物っぽくて彼の胸をざわめかせるのだが、本人はまったくの無自覚であるらしい。

「あ、そうだ!ちょっと待ってて下さい」

突然何かを思いついたらしく、そう言うと、真奈は慌ただしく部屋を出ていった。
階段を下りていく足音が聞こえる。

それから少しして、また階段を上がってくる足音が聞こえてきた。
トン、トン、トン、と、それこそ小動物が歩いているような可愛らしい足音が。



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