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今年もプール開きの清掃を経て、体育の日程に水泳の授業が加わった。
夏がやってきたのだ。

真奈は固い決意を胸に、水着等が一式入ったバッグを携え、今年オープンしたばかりの並盛市営屋内プールを訪れていた。
近隣の施設の中では最大の規模を誇る、並盛の新たな観光スポットである。
ただし、真奈の目当てはレジャー用のプールではなく、エクササイズや練習用に使用されるプールのほうだった。

「あれ?」

エントランスに入った真奈は違和感を覚えて辺りを見回した。
人が少ない。
というか、誰もいない。
休館日ではないはずだが──。
そういえば、入口に何か張り紙がしてあった気がする。
出入口は開いていたし普通に入れたのでスルーしてしまったがまずかっただろうか。

「真奈さん!」

戻って確認しようと向きを変えたまずかったを、聞き覚えのある男の声が呼びとめた。

「草壁さん?」

カウンターの横から現れた人物を見て真奈は驚いた。
葉っぱを咥えたリーゼントの男は風紀委員副委員長の草壁哲矢だ。

「泳ぎに来たんですか?」

そういう草壁はいつも通り学ランを着込んでいる。
およそプールに来たとは思えない恰好だ。

「はい。ちょっと練習しようと思って」

「そうでしたか」

草壁は真奈が手に提げているバッグを見て頷いた。

「外で風紀の者に会いませんでしたか?今日は委員長の貸し切りになっているんです。一般客は建物に来る前の道路で足止めしているので、館内には今は我々風紀委員しかいません」

草壁はこの施設に到る道路に見張りの風紀委員を配置していた。
真奈は気がつかなくても向こうは彼女に気が付いたはずだ。
そして、相手が真奈だからこそ何も言わずにそのまま通したに違いない。
風紀委員に在籍する者で、委員長の想い人を知らない人間はいないのだから。

「そういうことならまた今度にしますね」

「ちょ、ちょっと待って下さい!」

事情を把握した真奈が出て行こうとするのを見て、草壁は慌てて呼び止めた。
勝手に真奈を帰したと知られたら、間違いなく雲雀に咬み殺されてしまう。

「今、委員長に確認してきますので、ここで待っていて下さい。直ぐに戻ります!」

そう言うなり走って行ってしまった草壁を、真奈はやや呆然として見送った。
学ラン姿があっという間に角の向こうに消えていく。



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