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守護者最強と謳われ、鬼神の如き強さを誇る雲雀恭弥だが、彼もヒトの子である以上、怪我を負うこともある。

所々切り裂かれた、一目でそれと分かる仕立ての良いブラックスーツ。
左手に分厚く包帯を巻かれた姿で帰宅した雲雀を迎えたのは、彼の妻になったばかりの真奈だった。

「お帰りなさい、恭弥さん」

「ただいま」

驚くかと思った真奈は、だがしかし、雲雀の手を見ても騒ぐことはなかった。
心配そうな顔で怪我をした手を見やり、それから雲雀の顔を見上げてくる。

「草壁さんに聞きました。今日のお仕事で怪我をしたって。全治1ヶ月なんですよね」

「これくらいならそんなにかからないよ」

言いながら、あのお節介め、と心の中で腹心の部下をなじる。
よし、後で咬み殺そう。

危険を伴う仕事なのは初めから承知の上だ。
だからこそ真奈も小言めいたことは言わないのだろう。
彼女自身もマフィアの血を引く娘なのだから。

雲雀は学校を卒業後、独自に風紀財団という名の秘密地下財団を作り上げ、その総帥を務めていた。
肩書きは相も変わらず“委員長”のままである。
我が道を行く性格もそのままで、己の目的と合致した時には綱吉達に力を貸してくれることもあるが、普段は別組織のボスとして基本無関心を通していた。

綱吉がやる事に煩く口を出す事もない代わりに、自分を束縛する事も許さない。
いわば、ボンゴレであってボンゴレでない者。
まさしく『雲』の体現者だと言える。
そして、今回の仕事は、雲雀個人の興味から追いかけている匣(ボックス)に関係する仕事だった。

「ご飯は直ぐに用意出来ます。もう食べますか?」

「いや、先に風呂に入るよ」

「恭弥さん……でも治療して貰った時に、今夜は入浴は控えるように言われましたよね?」

それも草壁が告げ口したのかと、雲雀はむっとして眉根を寄せた。
冗談じゃない。
化膿する危険を避ける為だということは分かるが、医者の言った事には絶対に従わなければいけないなどという道理はないはずだ。

「一日駆け回ったのに入浴しないほうが不衛生だろ。止めても無駄だよ」

そう宣言すると、真奈は意外にもしょうがないなぁといった風に微笑んで、近くの棚から黒い盆を取り上げた。

「そう言うだろうと思って、先生から傷に障らない入浴の仕方を教えて貰いました。私も一緒に入って洗うのを手伝いますから、無理しちゃダメですよ」

真奈が捧げ持った盆の上に患部を保護する為と思われるビニールなどが用意されているのを見て、雲雀は「ワオ」と感嘆の声をあげた。

「君は本当にいい奥さんだね」

「恭弥さんはとっても困った旦那様です」



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