いつものように風紀財団のアジトの和室で雲雀が寛いでいると、す、と障子が開いた。 廊下には真奈が座っている。 彼女は畳の上を滑るように雲雀ににじり寄ってきた。 「恭弥さん…」 「なんだい?」 「抱っこ」 「どうしたの。今日はやけに甘えただね」 雲雀はくすっと笑って真奈の背を撫でた。 雰囲気が妙な事は当然気付いていたが、これはこれで猫みたいで可愛いかもしれない。 「恭さん、お届け物をお持ちしました」 「入って構わないよ」 障子越しに返答を得た草壁は障子を引き開け、激しく後悔した。 雲雀が真奈を自分の膝に抱き上げてあやしていたからだ。 「それの中身は」 「は……梨です」 「そう。ひとつ剥いて持って来てくれるかい?この子に食べさせるから」 「へい、只今」 草壁は何事も無かったかのように会話して部屋を出た。 出た途端にどっと冷や汗が噴き出した。 梨を剥いて持っていくと、真奈は雲雀の首筋にすりすりと頬をすり寄せて甘えていた。 「そこに置いて下がっていいよ」 草壁は光の速さで退出した。 スルースキルを試されている気分だ。 しかも、扉を開けるたびに難易度が上がってきている。 そろそろ限界が近い。 訪問者は草壁が出て行ってすぐ訪れた。 黒衣のヒットマンである。 「どうしたの。何があったんだい」 雲雀はリボーンに尋ねた。 この男の仕業であることは疑いようもなかったからだ。 「返答次第によっては、いくら君でも許さないよ」 「死ぬ気弾だぞ」 「死ぬ気弾?」 「お前も知っているはずだ。死ぬ気弾を撃たれて死ぬ気になったツナをな」 「あれとは大分雰囲気が違うみたいだけど」 「どうやら真奈はお前に甘えたかったみてーだな」 「ふぅん…」 「実はお前も満更でもないだろ」 「さあね」 とは言ったものの、雲雀は機嫌が良さそうだった。 この子は遠慮してか、こんな風に積極的に甘えてくることはなかったから。 「効力が切れた時が見ものだけどな」 「それはそれで面白そうだからいいよ。たまにはこんなのも悪くない」 雲雀は親鳥が雛にそうするように、口に咥えた梨の欠片を真奈に口移しで与えた。 |