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※幼なじみ夢主



その白い病室の前には、黒い学ラン姿のリーゼントの男がまるで歩哨のように直立不動の姿勢で張り付いていた。
この階には他に病室は無く、特別な場所であることが伺える。

そこへ一人の少年が訪れた。

肩に学ラン羽織った少年を見て、リーゼントの男の背筋が更にぴしりと伸びる。

「異常ありません!」

報告に、少年は「そう」と頷いて病室の中に入って行った。
室内に満ちた消毒薬の匂いに花の香りが混ざる。
彼が持ち込んだ花束によるものだ。

病室のベッドの中には少女がいて、読んでいた本から顔を上げて笑顔で少年を迎えた。

「恭弥くん、来てくれたんだ」

「来るって言ったはずだよ」

「うん」

少女──真奈は、嬉しそうに微笑んで花束を受け取った。

二人は幼なじみだった。

病弱な真奈はひとたび体調を崩すと入院を余儀なくされる。
そのたびに雲雀恭弥は花束やフルーツの籠盛りを手に見舞いに訪れてくれるのだった。

「起きてて大丈夫なの」

「うん、もう大分調子がいいの」

「無理したらダメだよ」

「うん、わかってる」

雲雀の手が伸びてくるのを真奈はくすぐったいような気持ちで見守った。
その大きな手は真奈の頭を優しく撫でて、それから白い頬を滑り降りてから、名残惜しげに離れていった。

雲雀の身体はまだ少年の域を出ないけれども、その大きな手を見ていると、真奈はいつも『手の大きい動物の子どもは成長したら大きくなる』という話を思い出す。

雲雀は猛獣の子どもだ。
きっともっと大きくなる。

──果たして、その時まで自分は生きていられるだろうか。
生きて、成長して素敵な男性になった雲雀を見ることが出来るだろうか。

そう考えると胸が押し潰されそうに切なくなる。

大きくなった彼の隣には、きっとお似合いの素敵な女性が、

「いたっ」

「いま何かおかしなことを考えてただろ」

でこぴんされた額を手の平で擦る。
たふん赤くなっているはずだ。

「早くよくなりなよ。君がいないとつまらない」

「うん」

「僕が駆け回ってる間、君は僕を待ってるんだよ。ちゃんとそこに帰ってあげる」

「…うん」

「もうキスしてもいいかい?」

「うん…」

雲雀の唇は柔らかく、あたたかかった。

生きている。

彼も。自分も。

それが強く感じられて嬉しかった。
まだ生きていけると思えた。

「君は僕の傍にいるべきだ。何年経っても、僕の隣に」

並盛の王様がそんなことを言うので、真奈は笑顔で頷いた。

それはぶっきらぼうな彼なりの優しい命令だったからだ。

「うん、約束する」

「破ったら咬み殺すよ」

「うん、約束する」

恭弥くんは優しい、と真奈は涙の膜が張った瞳をまたたいて思う。

彼は優しい。
そして強い。

弱い自分に儚い未来を信じさせてくれるくらいに。


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