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※幼なじみ夢主


5月5日は端午の節句。
だが、風紀委員の間で知られているのは、子供の日イコール風紀委員長の誕生日だということだろう。
それは、彼の幼なじみである私にとっても同じことだ。

毎年タオルとか無難なものをプレゼントしているけれど、今年は思い切って手作りのちまきを贈ることにした。
老舗の和菓子店のものには敵わないが、愛情だけはたっぷりこもっている。
笹は京都の名産地からチマキザサを取り寄せた。
やはり柔らかさや香りが全然違う。
これなら恭弥くんの舌も満足させられるだろう。

そう思っていたのだ。
誕生日当日、恭弥くんにプレゼントを渡して彼が微妙な表情になったのを見るまでは。

正直、失敗したと思った。
やっぱり食べ物はまずかったか。もっと無難なものにしておけばよかった。
後悔先に立たずとはこのことである。

「恭弥くん、ごめんね」

「どうして謝るの」

「だって困らせちゃったみたいだから…」

「まあね。確かに困ってる。これじゃあ、とっておけない」

「えっ?」

「君から貰ったものは全部とってある。毎年誕生日にくれたものとか」

「そ、そうなの?」

「怪我した時に貼ってくれた絆創膏もね」

確かに手当てしたことは何度かあるけど、その時のものまでとっていたなんて驚きだ。

「君は違うの?」

「私も同じだよ。恭弥くんがくれたものは全部大事にとってあるよ」

「なら問題ないね」

そうやって簡単に片付けてしまえる恭弥くんは凄い。
私なんて感動して泣きそうになっているのに。
恭弥くんと一緒なんて嬉しい!

「ちまき食べるよ」

「うん、どうぞ召し上がれ」

イグサの紐を器用にほどいて笹の中から出てきた中身に恭弥くんがかぶりつく。
こういう時の恭弥くんはなんだかあどけなくて可愛い。
本人に言ったら絶対咬み殺されるけど。

「美味しい?」

「まずくはないよ」

「うっ…もっと精進します」

「うん」

咀嚼したちまきを飲み込んで恭弥くんは言った。

「来年はもっと腕をあげておいで」

「来年も食べてくれるの?」

「僕の健康を願って作ったんだろ?」

「…うん」

「それなら、毎年そうすべきだ。これは決定事項だからね。反論は許さないよ」

「恭弥くん…」

「泣くんじゃないよ。慰めるのが面倒だ」

「う、うん」

「君はすぐに泣くから困る。僕を困らせてる自覚はあるのかい?」

「ごめんなさい…」

「いいよ。許してあげる」

恭弥くんが鷹揚に頷く。

「君は特別だよ。特別に、僕の誕生日を祝わせてあげる」

「ありがとう。お誕生日おめでとう、恭弥くん」

「うん」

並盛の王様は機嫌良さそうに笑みを見せた。
彼のこの笑顔が、下僕その1でもいいと私に思わせるのだ。
彼女になりたいなんて、とんでもない。
恭弥くんの幼なじみというだけで、ここからの眺めは絶景だった。

お腹が満たされたので眠くなったのか、恭弥くんがあくびをする。

「恭弥くん、お昼寝する?」

「そうだね、少しだけ寝ようかな」

恭弥くんは眠たげにそう言うと、ソファに横になった。
ひじ掛けに頭を預け、反対側のひじ掛けから脚を投げ出して。

休日の学校の応接室なんて誰も訪ねて来ないだろう。

ピ、と鳴いた黄色い小鳥に、しーっと指を立ててみせ、恭弥くんが眠る向かい側のソファに座る。

そうして幼なじみだけの特権を行使した私は、心ゆくまで無防備な寝顔を堪能したのだった。


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