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並盛デパートの屋上にビアガーデンがオープンした。
毎年やっているそうだが、今まで一度も来たことがなかったので今日が初体験になる。
久しぶりに会う高校時代の友人達とテーブルを囲んでメニューを開いた。
何を飲もうかな。

「まずは生中でしょ」

友人が言って、さっさと店員さんに注文を伝えてしまった。

「生中ってなに?」

「生ビール中ジョッキのことだよ」

「それで乾杯するの」

なるほど。そんなお約束があるのか。

「ほら、来た」

早くも店員さんが人数分のジョッキを持って戻って来た。

「じゃあ、かんぱーい!」

「乾杯!」

みんなでジョッキを掲げて乾杯する。
ジョッキに口をつけると泡が唇についた。
そのままジョッキを傾けると、よく冷えたビールが喉を滑り降りて行く。
ちょっと苦いけど、悪くはない感じだ。
いつもは日本酒なので新鮮な感覚だった。

「何食べたい?」

「焼き鳥!」

「いいね、頼もう頼もう!」

みんなでメニューを回し見て、食べ物を注文する。
空きっ腹にアルコールはよくない、酔いが早く回るからということで、かなり色々な種類の食べ物を頼んだ。
とりあえず焼き鳥が楽しみだ。

「生中知らないとか、大学で飲み会とかなかったの?」

「この子、高校卒業してすぐ就職しちゃったから」

「ああ、ヒバリさんのとこね」

みんなちょっとペースが早い気がする。
それとも私が遅いんだろうか。
恭弥くんに付き合って晩酌する時にはいつもゆっくりだから、やっぱり私が遅いのかもしれない。

「てっきりそのまま永久就職だと思ってたのにね」

「ほんと、ヒバリさん意外と奥手なんだ?」

「えっ」

「えっじゃないよお。実際どこまでいってんの?」

困った。友人が絡み酒だったとは。
酒の肴にちょうどいいと思われてしまったのか、四方から追求される。

「で、どうなの?」

「ヒバリさん、やっぱり夜も王様な感じ?」

「えっと…」

「答える必要はないよ」

顔を上向けると、上から恭弥くんが見下ろしていた。
一目でわかる不機嫌そうな顔。
スーツ姿ということは仕事の帰りに直接来てくれたのだろう。
今日は確かボンゴレからの依頼で出ていたから綱吉くんが気を利かせてくれたのかもしれない。

「恭弥くんも飲む?」

「馬鹿なことを言う口はこの口かい?」

頬っぺたを引っ張られる。いたい、いたい!

「ほら、帰るよ」

「はぁい…」

恭弥くんに促されて席を立つ。
みんな唖然としたまま私達を見守っていた。
その顔が揃って赤いのは、アルコールのせいか、それとも野生と気品を兼ね備えたアジアンビューティーな美青年を間近で見てしまったからか。
後者だろうなあ。

「あ、待って。ちょっと残ってる」

私が手を伸ばすより速く、恭弥くんの手がジョッキの握り手を握った。
そのまま残りをぐいっと一気飲みしてしまう。

「か、間接ちゅー…」

「今更だろ」

恭弥くんの長い指が私の胸元に滑り込んで、服の中にしまっていたネックレスを引っ張り出す。
銀色の細く優美なチェーンにはプラチナのリングが通されている。
失くすのが怖くてそうして大事に身につけていたリングを、みんなに見せつけるようにして恭弥くんは彼女達を睥睨した。

「君がちゃんと薬指につけないから面倒なことになるんだ」

「ハイ…ごめんなさい」

「明日からはちゃんとつけなよ」

「ハイ」

そのまま歩き出した恭弥くんに慌ててお財布を取り出す。

「ごめんね!みんな楽しんでいってね」

代金を置いてみんながこくこく頷くのを確認してから、急いで恭弥くんの後を追った。

「飲みたいなら、僕が相手をしてあげるよ。朝までじっくりとね」

私を流し見てそう笑った恭弥くんの色っぽいことといったら、「よろしくお願いします」としか返事が出来なかったということで察してもらいたい。

私の婚約者は、もちろん、夜も王様だ。


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