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※幼なじみ夢主


これほど着流しと和傘が似合う人は他にいないのではないだろうか。
その人の半歩後ろを歩きながら、すらりとした美しい姿を堪能する。

私は人より少し身体が弱い。
小さい頃からよく熱を出したり病気にかかって入院していたため、両親にはかなり心配をかけてしまった。
我ながらよく無事に成人出来たものだと思う。
そんな私に毎日の散歩を勧めてくれたのは、学生時代入院した時にお世話になった主治医の先生だった。
不眠症気味でもある私を心配して、毎日少しずつでもいいから外の空気を吸いながら歩きなさい、と教えてくれた。

「雨だと人が少ないね」

「群れないから、雨の日は嫌いじゃないよ」

「恭弥くんの基準はそこなの?」

思わず笑ってしまったら、ムッとした様子で「笑うな」と頬を引っ張られた。

紫陽花が綺麗だ。
紫陽花を背にした恭弥くんも。
杜若も好きなのだけど、この辺りでは見かけない。
もう少し足を伸ばせば見られるというなら頑張って歩くんだけどな。
きっと恭弥くんに似合うはずだ。

「もういいだろ。帰るよ」

「ええー」

「さっきより息があがってる。無理はしないと約束したはずだよ」

「うん…ごめんなさい」

梅雨の景色に恭弥くんがあまりにも映えるので、つい調子に乗ってしまった。

「真奈」

「なあに?」

「傘畳んで」

「えっ?」

「早く」

「う、うん」

言われた通りに傘を畳むと、ひょいと片腕で抱き上げられた。
片腕で!

「重いからいいよ!」

「トンファーより軽い」

「恭弥くん!」

「うるさい」

キス、されてしまった。恥ずかしい。
誰も歩いていなくて良かった。

恭弥くんは優しい。
縄張りの見回りだと言って散歩に付き合ってくれるし、疲れたら抱っこしてくれるし。
本当にこんな凄い人の隣にいていいのだろうかと時々心配になる。

「恭弥くん、ごめんね」

「どうして謝るの」

「私、いっぱい迷惑かけてる」

「迷惑なんかかけられた覚えはないけど」

「恭弥くんは優しいから」

「僕は自分のやりたいようにやりたいことをしているだけだ。それを優しさだと言うなら、この世の中、善人ばかりということになるよ」

「うん、そうだね」

私を抱えて歩いているのに、ちっとも息をきらせていない恭弥くん。

恭弥くんのいる世界は優しい。
だから、まだ頑張って生きていたいと思える。
少しでも長く恭弥くんと一緒にいたいと願ってしまう。

「ずっと一緒にいようね、恭弥くん」

「仕方ないから約束してあげる」

「うん」

「破ったら咬み殺すよ」

「うん」

恭弥くんの首筋に顔を埋めながら、私は今この瞬間の幸せを味わっていた。

どうか、優しい恭弥くんを悲しませないためにも、一秒でも長く一緒にいられますように。

この優しい世界で。


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