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並盛幼稚園に恐ろしい園児が現れた。

入園初日にそれまで幅を利かせていたガキ大将とその取り巻き達をぶちのめし、新たな支配者として君臨したという恐るべきお子様。

見た目はそれはもう愛らしい男の子なのに、大人でも手がつけられないほど狂暴なその子は、私の年下の幼なじみ、雲雀恭弥くんである。

彼の噂は私が通う学校にまで広がっていた。
たぶん、町中に広まっているんじゃないかな。
恐ろしい子。

「待ちなよ」

その恭弥くんに道の真ん中で通せんぼされた。

「なあに、恭弥くん」

「僕に渡すものがあるんじゃないの」

今日はバレンタイン。
しかし、あの恭弥くんがチョコレートなんか欲しがるだろうか?

「早く寄越しなよ、チョコレート」

欲しがってた。

片手を出して、瞳をキラキラさせている。
可愛い。
やっていることはカツアゲに近いけど。
可愛い。

「ねぇ、まさか用意してないとか言わないよね」

「あ、ごめんね。はい、チョコ」

「ん」

スクールバッグから取り出したチョコを渡すと、恭弥くんはその場で器用にラッピングを剥がして中身を取り出した。

「これ、ハリネズミ?」

「うん。可愛いでしょ」

「小動物は嫌いじゃないよ」

知ってる。

だから小さいハリネズミの形のチョコにしたのだ。

「真奈の手作り?」

「そうだよ」

「ワオ、料理出来たんだ」

「ちょっと恭弥くん、それどういう意味?」

「それなら何も問題ないね」

恭弥くんは何だか一人で納得している。

くいくい、と小さな手に袖を引っ張られたので身を屈めたら、頬っぺにキスをされてしまった。

「僕が大きくなったらお嫁さんにしてあげる」

「えっ」

「それまで浮気しちゃダメだよ。他の男に目移りしたら咬み殺す」

すました顔で脅迫まがいの内容を言っているけど、それってどうなんだろう。
年の差的にも。

「返事は?」

「あ、ハイ」

「約束したからね」

ぱく、とチョコにかぶりついた恭弥くんが最高に可愛かったので、約束云々はもはやどうでもよくなってしまった。

大きくなった恭弥くんかぁ。

どんな男前になるか楽しみだなあ。


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