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近頃はだいぶ春めいて暖かくなってきていたのだが、今日は寒の戻りなのか、かなり寒い。
私は末端冷え性で、手足の指先が冷えて困るため、まだ炬燵を出しっぱなしにしていたのだけど、結果的にそれで助かった。

その炬燵で、恭弥くんがうとうとしている。
炬燵で身体が温まって眠くなったのだろう。
彼の頭に乗っているヒバードも目を閉じてゆらゆらしている。

微笑ましい光景だが、このまま眠ってしまって風邪をひいてはいけない。
心を鬼にして恭弥くんを起こしにかかった。

「恭弥くん、寝ちゃダメだよ。風邪ひいちゃうよ」

「寝てないよ」

ムッとしたような顔を作ってはいるけど、声がぽやぽやしてて今にも寝そうだったのバレてるからね。
彼の頭の上でヒバードがまんまるい目をぱちくりさせているのが可愛い。

「せっかくあなたといるのに寝たりしない」

「うん、ありがとう。恭弥くん」

見回りのついでに寄っただけだと言っているけれど、ちゃんとホワイトデーの贈り物を持って来てくれたし、彼なりに私のことを真剣に考えてくれているのがよくわかる。

「でも、眠かったらベッドで寝てくれてもいいんだよ。恭弥くんの寝顔が見られるだけでも私は幸せ」

「僕の寝顔なんて見て何が楽しいの」

恭弥くんが呆れたように言う。
でも、それってつまり安心して眠れる場所だって思ってもらえてるということだもんね。
それに、恭弥くんの寝顔なんて貴重だ。
是非写真に収めたい。

「それとも、誘ってる?」

恭弥くんの顔に凶暴な色気が表れる。
まだ高校生だというのに、この色気は犯罪だ。

「ふふ、添い寝してあげようか」

「子供扱いしないでよ」

途端にムッとする恭弥くんだけど、そんなところがまだお子様っぽくて可愛らしいことに彼は気付いていない。

ごめんね。ちょっと意地悪しすぎたかな。

「恭弥くんのこと本当に子供だと思ってたら、えっちなことなんてしないよ」

「そうだね。僕も年の差なんて感じない。特に、僕に抱かれてる時のあなたは可愛いよ」

「もう、恭弥くんてば」

恥ずかしいなあ。もう。

艶然と微笑む恭弥くんは本当にカッコいい。
年上の余裕が揺らぎそうだが、踏ん張らなくては。
でないと、彼の若さゆえの旺盛な性欲に流されてしまう。
色事なんて興味ありませんみたいな清廉な佇まいをしているくせに、こう見えてそっちも凄いのだ、恭弥くんは。
恋人としては嬉しいけれど、お姉さんとしては年下の男の子に振り回されっぱなしなのはちょっと困る。

「それより、お腹すいたでしょう。ご飯作るから食べていって」

「うん」

素直でよろしい。

私は立ち上がるとキッチンに向かった。
早速食事の支度を始める。

ここからでも恭弥くんが見える。
それは恭弥くんからも見えるということだ。

彼の視線を感じながらお味噌汁を作っていると、

「いいね」

恭弥くんがこちらを見ながら笑った。

「僕のために食事を用意しているあなたを見ているのは悪くない気分だ」

私も恭弥くんに笑顔を返した。

「私も、恭弥くんのために食事の支度をするの好きだよ。恋人同士っぽくて」

「そう」

恭弥くんは満足そうな表情で炬燵の上に頬杖をついた。
大きなあくびを一つ。

「恋人らしいことをしてあげられていないと思っていたけど、あなたが嬉しそうにしているから安心したよ」

そうして、彼は目を閉じた。
今この瞬間の幸せを噛みしめるように。


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