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「五月晴れですね」

「そうだね。昨日はどうなることかと思ったけど」

今日は良い天気になって良かった。
昨日は雨こそ降らなかったものの、雹が降ったり局地的に雷雨になったりしてピクニックには向かない天候だったから。

一夜明けた今は、芝生の上を穏やかな風が吹き渡り、雲雀が肩に羽織った学ランの裾を柔らかく膨らませてはためかせている。

大木の下にレジャーシートを広げて座った真奈は、同じように腰を降ろした雲雀の前に、出掛ける前に作って来たお弁当の重箱を並べた。

「お弁当作って来たんです。食べましょう」

「うん」

ウェットティッシュで手を拭いて、いただきますをしてから箸を手に取る。

「恭弥さん、あーんして下さい」

素直に口を開けた雲雀に特製の玉子焼きをぱくりと食べさせると、彼は上品に咀嚼して飲み込んだ。

「君が作る料理はどれも美味しいね」

「ありがとうございます」

お弁当の定番の玉子焼きや唐揚げに、タコさんウインナー。
ご飯は食べやすいようにまくらおむすびにしてきた。
雲雀と真奈は時々言葉を交わしながら食べ進んでいった。

お腹をすかせていたのか、雲雀はあっという間に重箱の中身をたいらげた。

「御馳走さま。美味しかったよ」

「いえいえ、お粗末さまでした」

雲雀は食後のお茶を飲みながら、雲針ネズミのロールを指で撫でてやっている。

しかし、しばらくすると眠くなったらしく、大きなあくびをした。

「恭弥さん、膝枕しますから、少しお昼寝しませんか?」

「そうだね。そうしようかな」

雲雀は真奈の膝枕に頭を乗せてごろりと寝転がると、素直に目を閉じた。
ややして、穏やかな寝息が聞こえ始める。

いかにもデートらしい流れに、真奈は密かに胸をときめかせていた。
幸せだなあとしみじみ思う。

好きな人のお誕生日に一緒に過ごせて、甘えてもらって。

いくら大抵の超常現象を受け入れられる順応力があるとはいえ、真奈だって年頃の女の子なのだ。
リボーンに半ば陥れられるかたちで肝試しに赴き、挙げ句不良達の襲撃に遭った夏祭りの時のあれは、出来れば初デートとしてカウントしたくない。

…ちなみに、夏祭りの件については、後でリボーンを問い詰めたところ、「お陰でヒバリと仲良くなれただろうが」と澄ました顔で言われ、たいそう脱力した。

(恭弥さん、また身長伸びたみたい)

膝枕ですやすや眠っている雲雀を見て、真奈は彼の背が伸びていることに気付いた。

背丈や身体の厚みこそ未だ子供の域を脱していないものの、しなやかな筋肉がつきつつあるその身体は、確かに男らしい風格を身につけ始めていた。

「お誕生日おめでとうございます、恭弥さん」

「そういうことは起きている時に言いなよ」

「ごめんなさい、起こしちゃいましたか?」

「うん。だから、君も一緒に寝ればいい」

「え、あっ」

ぐるりと視界が回転する。
雲雀に腕を引かれて、ころんと寝転がる形になった真奈の頭の下に、彼は腕を入れて腕枕をしてくれた。

すぐ側に雲雀の顔がある。
照れくさそうに微笑んだ真奈にキスを一つして、雲雀はまた目を閉じた。

「おやすみ、真奈」

「おやすみなさい、恭弥さん」

寄り添って眠る恋人達の傍らから、ヒバードがそっと飛び立つ。

小鳥は空を大きく旋回しながら、歓声をあげる代わりに愛らしい声でさえずって、喜びの歌をうたった。


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