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「真奈、大丈夫?」

「無理しないで保健室行こ?」

「うん…」

朝から偏頭痛に悩まされていたのだが、一向に治る気配がない。
これほど酷いのは久しぶりだ。
こんな状態ではまともに授業を受けられそうにないので、友人の言葉に従って保健室へ行くことにした。

「真奈」

「恭弥さん…おはようございます」

「おはよう。どうしたの」

両側を黒川花と笹川京子に支えられるようにして廊下を歩いていると、見回りの最中だったらしい雲雀に見つかってしまった。

「真奈ちゃん、偏頭痛が酷いみたいで保健室に連れて行くところなんです」

「あの不良校医は留守だよ」

「そうなんですか?どうしよう…」

「静かな場所で休めればいいんだろ。この子は僕が預かるよ」

「いいんですか?」

「お願いします」

真奈本人をよそに雲雀と京子達の間で話が決まってしまった。

「おいで、真奈」

京子達の手から雲雀へと真奈の身体が渡され、抱き上げられる。
お姫様抱っこだ。

「病院に行く?」

恥ずかしがるでもなくぐったりしたままの真奈を見て、さすがに心配になったのか雲雀が尋ねてくる。

真奈は弱々しく首を横に振った。

「大丈夫です…今朝お薬を飲んだから…」

「わかった」

雲雀は短く言って、歩き出した。

向かった場所は当然ながら応接室だ。

雲雀は応接室の皮張りのソファに真奈をそっと寝かせると、傍らに膝をついて彼女の前髪を梳き上げた。
その額は冷たい。
いつもは体温が高いのに、と雲雀は優しく真奈の頭を撫でた。

「ゆっくり寝ていていいよ。ここなら邪魔は入らない」

「ありがとうございます、恭弥さん」

真奈は微笑んで、大人しく目を閉じた。
痛みはまだ酷かったが、気分的には少し楽になった気がする。
雲雀が側にいてくれるからだろうか。
守られている、と感じるのは、何だかくすぐったいような感覚だった。

「pi…」

「静かに」

心配そうに真奈を覗き込みにきたヒバードに注意をし、自らはソファの前のテーブルに腰掛けて彼女を見守る。
お行儀がどうのと言っている場合ではなかったので、この際気にしないことにしたらしい。

雲雀は肩に羽織っていた学ランを真奈に掛けてやった。

「あったかい…」

「そう」

真奈が幸せそうに囁いたから、それで正解だったようだ。

こんなことには慣れていない。

自分よりガタイのいい相手をぶちのめすことは得意だが、病気で苦しんでいる好きな子の看病をするなんて、雲雀には初めてのことだったから、わからないことだらけだ。

ただ、早くよくなるようにと、彼女に寄り添って、その頭を優しく撫でてやることしか出来ない。

応接室のドアがそっと開けられて、草壁が中に身体を滑り込ませてくる。
その腕には毛布と水のペットボトルと薬があった。

恭しく差し出されたそれらを受け取って、雲雀は毛布で真奈の身体を包み込んだ。

「薬は飲んだって言ってたけど」

「朝に飲んだのなら、もう二時間くらいしたらまた必要になるかもしれません」

そういうものなのか、と雲雀は薬とペットボトルを傍らに置いた。
真奈が目を覚ましたら飲ませられるように。

「早くよくなりなよ。僕を心配させるなんて君だけだ」

困ったように呟く雲雀を見て、草壁は微笑ましく思いながらそっと応接室から出ていった。


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