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「名字さん、ごめん、電話でて」

「はい」

先輩薬剤師が手が離せないからと、事務所で鳴り始めた電話に代わりに出た。

「はい、黒曜薬局です」

『あ、あの、もしかして名字さん?』

聞こえてきたのは懐かしい声だった。
卒業以来まともに会話をしたことはないが、時々見かける事がある。
この前はお母さんのほうにも会った。

「沢田くん?」

『ああ、丁度良かった!名字さん、そこにいたら危ないから早く逃げて!!』

「え?」

店舗との境にあるガラス窓の向こうから先輩が目線で問いかけてくる。
それに口パクで大丈夫ですと答えて、真奈は改めて電話の向こうの相手に問いかけた。

「危ないってどういうこと?」

『詳しく説明してる時間はないんだ。でもとにかく早く逃げて!!ヒバリさんがそっちに行くかもしれないから!!』

その名前は矢のように真っ直ぐ真奈の胸に突き刺さった。
不意打ちだったので余計に痛い。
グサッと来た。

「で、でも、いままだ仕事中だから…」

『あー、まあそうだよな。でもほんと危ないから!今のヒバリさん何するかわかんない状態なんだ。俺もいまそっち向かってるから」

確かに移動しながら話しているような感じだった。
時々風の音みたいな雑音が入って少し聞き取りにくい。

『今すぐ逃げるのが無理そうなら、隠れるとかして…』

「ごめん…沢田くん…ちょっと遅かったみたい……」

身を隠す場所は、と辺りを見回した時、丁度店の入口から入ってくる黒スーツの男の姿が目に入った。
しかも目が合った。
真っ直ぐこっちを見ている。
完全にアウトだった。



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