「……ん?あれ?恵くん?」

「目が覚めましたか」

気がつくと、恵くんにおんぶされていた。
えっ、どういう状況?

「間違ってアルコール入りのドリンクを頼んで、それ飲んで寝ちゃったんですよ。家入さんから連絡を貰って迎えに行ったら、ぐーぐー寝てて肝が冷えました」

「ご、ごめんね、迷惑かけちゃって」

「気にしなくていいです。他の男を頼られるよりずっといい」

見れば、もう高専の敷地内で、職員寮までもうすぐのところだった。たぶん、結界ギリギリの場所までタクシーに乗ってきて、降りてからはずっとおんぶで運んでくれたのだろう。

「ごめんね、恵くん」

「謝らないで下さい」

成人女性一人背負っているというのに恵くんは呼吸も乱していない。
さすが常日頃鍛えてるだけあって体力があるなあ。単純に男女の差だけじゃない体力の差を感じる。

「今日ほど年の差を恨めしく思ったことはないです」

恵くんが言った。一見するとクールに見えるけど、その実熱い男である恵くんは自分がまだ未成年であることを悔しく思っているようだ。そんなこと気にしなくていいのにと言ってあげたいが、微妙なお年頃だし余計なことは言わないほうが良さそうだ。

「俺がなまえさんと同じ、成人している男だったら、堂々と彼氏面してあの場から攫ってこられたのに」

「彼氏面って……」

「嫌ですか。俺が彼氏なのは」

「嫌じゃ、ないです……」

沈黙が落ちた。どこかで虫が鳴いている。
何だかくすぐったくなるような沈黙の中で、姉弟のようだった私達の関係はほんの少しだけ変化した。
少しだけ。


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