夏は呪術師にとっての繁忙期である。

私達補助監督にとってもそれは同じで、任務であちこちに派遣される呪術師のサポートに明け暮れる毎日だ。
そんな中、僅かな休みを使って都内ホテルの屋上にあるビアガーデンで少し早い慰労会が行われることになった。
意外だったのは参加者の中に五条さんがいたことだ。途中からの合流となったが、それでも充分有りがたい話だ。誰よりも忙しいであろう五条さんが参加してくれたことがある意味免罪符になった気がして、皆幾らか気が楽になったようだった。

「なに飲んでるの?」

「フローズンカクテルです。甘くて美味しいですよ」

「ふーん」

味見がしたいのかとストローを差し出してから、そういえば五条さんは下戸だったのだと思い出した。五条さんはストローには目もくれずにその大きな手で私の顎を掬い上げると、上半身を屈めて私の口に食らいつくようにキスをしてきた。すぐ目の前に神様の最高傑作だと言っても過言ではないほど美しいご尊顔がある。髪と同じ新雪の色をした長い睫毛に縁取られた瞳を軽く伏せた、五条さんの顔。私は瞬きも忘れてその美に見入ってしまった。

「ほんとだ。甘いね」

驚きのあまり固まってしまっている私の口内をたっぷりと時間をかけて熱い舌で舐め回してから、ちゅぱっと湿った音を立てて口を離した五条さんが笑って言った。艶のある唇が濡れている。

「ん、もう一回」

「だ、だめです!」

「なんで?僕のキスよくなかった?」

良いか良くないかというなら、はっきり言ってめちゃくちゃ気持ち良かった。でもそういう問題じゃないのだ。

「五条さん酔ってますよね?」

「酔ってない酔ってない。ね、ちゅーしよ」

キスを迫ってくる五条さんを押し返そうとするがびくともしない。190cmを越える大男に力で敵うはずがなかった。

「や、やめ、んんっ、んーっ!」

「ふふ、ほら口開けて」

抵抗むなしく、再びにゅるりと舌が入ってくる。フローズンカクテルでひんやりとしていた口内を好き放題に蹂躙されて腰が砕けそうになる。

「なまえの口の中、甘くて冷たくて最高」

ぺろりと舌なめずりをした五条さんに解放された頃には、すっかり全身から力が抜けきっていた。そんな私を五条さんが軽々と抱き上げる。

「というわけだから、なまえは僕がお持ち帰りさせて貰うね」

五条さんの宣言に何人かが青ざめた顔でこくこくと頷くのが見えた。同僚達に助けを求めようにも誰も目を合わせようとしてくれない。こんなのひどすぎる。

「ここの会計は済ませてあるから、今日は目一杯楽しんでよ。じゃあね」

五条さんは私を抱き上げたまま人目につかない場所まで移動すると、そこで一度空中に浮かび上がってから一気に高専の敷地内へとトんだ。
そうして悠々とした足取りで職員用の寮まで歩いて行き、自分の部屋へと入ってベッドの上に私を降ろした。

「や……!」

「やじゃないでしょ。もう濡れてるの知ってるよ」

脚の間に入り込んだ手が下着のクロッチの部分を指でなぞる。それだけで身体がぞくぞくと震えた。

「ほらね。抵抗しても無駄なんだから大人しくしてな」

上から私を押さえつけるようにして覆い被さってきた五条さんが、ゴツゴツした大きな手に不似合いな繊細な手つきで私の服を脱がせていく。汗ばんだ肌にその手が直に触れて、ひっとなる。

「五条さん、酔ってるから……そうですよね、ちょっと悪酔いしてふざけてるだけですよね?」

「僕の目を見て。ふざけてるように見える?」

五条さんの目は。薄闇の中でもきらきらと煌めいて見える六眼は、この上なく真剣で、それでいて情欲で濡れていた。思わずごくりと喉が鳴ってしまうほどに。

「愛してる」

蜂蜜のようにとろりと蕩けた甘やかな声で五条さんが囁いた。

「ずっとお前のことが欲しかった。もう我慢出来ない。僕のものになって」

「ご、五条さ、」

「まあ、抵抗しても僕のものにしちゃうけどね」

ちゅ、ちゅ、と軽く触れるだけのキスを繰り返されながら、素肌の上を大きな手が這い回る感触に身体が震えた。五条さんの動きひとつひとつに敏感に反応してしまう。

「大丈夫、僕巧いから。安心して身を任せてよ」

首筋に顔を埋めた五条さんがぢゅっとそこに吸い付いてから顔を上げて笑った。青い目に縫い留められてしまったように、その美しい六眼から目が離せない。

「天国に連れて行ってあげる」


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