「ビアガーデンでアイスコーヒー飲んでるやつ初めて見たぜ」

「尾形さんがアルコールはダメだって言ったんじゃないですか!」

そういう尾形さんは茨城県の地酒である純米吟醸を飲んでいる。いいなあ。私もお酒飲みたい。
私がお酒を飲ませて貰えないのには理由がある。現在妊活中の身だからだ。万が一を考えてアルコールの摂取を控えているのだった。
と言っても尾形さんが酷いわけでもない。
妊活を始めてからずっと尾形さんも断酒していて、今日は雰囲気だけでも楽しめればとビアガーデンに誘ってくれたのである。
お疲れ気味の尾形さんに今日くらいは飲んでもいいですよと勧めた手前、ずるいとも言えない。

「赤ん坊のためだ。我慢しろ」

「うう、わかってます」

私の頭をぽんぽんと優しく叩いた尾形さんも、結局お酒を飲んだのはその一杯だけで後はウーロン茶に切り替えて私に付き合ってくれた。相変わらず私には甘い──のかな?

「そうだ、勇作さんから連絡があったんですけど、子供服とか玩具はもう買ってもいいですかって聞かれたのでお気持ちだけ頂いておきました」

「気が早すぎるだろ……まだ孕んでもないんだぜ」

「兄様の赤ちゃん!って今からもう張り切ってますからね。嬉しいけど前のめり過ぎて困っちゃいます」

「勇作殿は昔からああだ」

「お兄ちゃん子ですよね」

尾形さんは鼻で笑って前髪を手で撫で付けた。これも昔からお馴染みの仕草だ。

「照れなくてもいいのに」

「別に照れてない」

「バレバレですよ」

「うるせえ」

頬をぐにぐにされても全然痛くなかった。
口では乱暴なことを言っても、尾形さんに乱暴に扱われたことは一度もない。
白石さんに言わせると『恋女房って言葉はなまえちゃんにだけ甘々な尾形ちゃんのためにある』ということらしい。

「少し気温が下がってきた。帰るぞ」

尾形さんが私の肩にカーディガンを着せかけてくれる。
私は頷いて尾形さんの腕に腕を絡めて歩き出した。

昔──前世ではなし得なかったことを私達はやり遂げようとしている。
二人の子を産み、育てるということ。その尊い仕事のために、私達は頑張って勉強している最中だった。

「赤ちゃん、男の子と女の子どっちがいいですか?」

「無事に生まれてくれさえすれば、どっちでもいい」

エレベーターのボタンを押しながら尾形さんが答える。

「お前に似たら、どっちでも可愛いのは間違いないからな」


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