飲み会というと居酒屋を思い浮かべがちだが、夏と言えばやはり屋上ビアガーデンだろう。
というわけで、今日は高専に所属する呪術師で集まってビアガーデンで飲み会を開催している。
繁忙期ももうすぐ終わり。忙しいさなかでのちょっとした息抜きだ。
思い思いにお酒を楽しむメンバーの中には珍しいことに七海さんの姿もあった。
一級呪術師と言えばこの時期引っ張りだこだ。五条さんほどではないとはいえ、任務であちこち飛び回っているはずである。

「七海さん、どうして参加してくれたのかなあ?」

「そりゃ息抜きのためでしょ。こんな時くらい飲まないとやってられないわよ」

そうか、そういうものなのかもしれない。
答えてくれた同僚は一際盛り上がっているグループに合流して生ビールを飲んでいる。私はというと、声をかける勇気もなく、一人ちびちびとワインを飲んでいた。七海さんの母方のお祖父様の故郷であるデンマーク産のワインだ。意外とフルーティーで飲みやすい。

「デンマーク産のワインですか」

「え、あ、はい」

「珍しいものが置いてありますね。こういう場所で見かけるのは初めてです」

七海さんから話しかけられてしまった!
テンパる私をよそに、七海さんは私の隣の席に腰を据え、ワインボトルを手に取ってラベルを確認している。

「一杯頂いてもよろしいですか?」

「ど、どうぞっ」

七海さんはウェイターを呼んで新しいグラスを持って来させると、それにボトルからワインを継いで香りを確かめ、それからワインを口にした。

「なるほど。口当たりも良くて飲みやすいですね。これなら女性でも楽しめるでしょう」

「はい、美味しいです」

「ですが、飲みやすいからと言って杯を重ねてしまうと泥酔しかねませんので気を付けて下さい」

「は、はい!気をつけます」と答えようとした私の手に七海さんの手が重ねられる。

「特に、送り狼をしようと不埒なことを企んでいる男の前では」

耳打ちされた内容に頭がついていかない。
えっ、送り狼?誰が誰に?
こほん、とひとつ咳払いをして。
七海さんが几帳面な仕草で、あの特徴的な眼鏡の位置を直した。

「なまえさん」

「は、はいっ」

「そろそろお帰りになったほうが良いのでは?タクシーを呼びましょう」

「あ、はい、ありがとうございます」

七海さんがタクシーを呼んでくれている間、万が一のこともあるからと、部屋は片付けてあっただろうか、とか、今日どんな下着をつけてきてたっけ、などとぐるぐる考えていた私は、もちろん七海さんのような紳士的で素敵な送り狼なら大歓迎な気持ちでいたのだった。


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