目覚めると、そこは見知らぬ部屋の中だった。 暗くて静かだ。 辺りに人影はない。 真奈はゆっくりと視線を巡らせた。 どうやら自分は、広々とした部屋の中央にあるキングサイズのベッドの上に寝かされていたらしい。 時間は夜。 窓の外には星空が広がっている。 部屋の向こう、窓際に置かれたテーブルの上に、アイスボックスと何かの酒のボトル、飲みかけのロックグラスが一つ置かれているのが見えた。 「ここ…何処…?」 まったく見覚えのない場所だ。 豪華な調度品の数々からして、もしかするとホテルのスウィートルームかもしれない。 でも、いったい何故? 不思議に思いながら耳を澄ますと、微かに水音らしきものが聞こえた。 音のする方にはドアが一つある。 浴室──とすると、シャワーの音だろうか。 不意に水音が止む。 どうすればいいかわからぬ内に、内側からドアが開かれ、バスローブ姿の男がタオルで濡れた髪を拭いながら現れた。 その姿を見た真奈の目が丸くなる。 「ザンザス…?」 向こうも驚いたらしい。 鮮血の色をした瞳が僅かに見開かれたかと思うと、次いで不穏な感じに細められた。 「…どうやって入った」 「え、あの、えっと…」 「俺の部屋に不法侵入するとは、いい度胸だな」 ザンザスは物騒な笑みを浮かべた。 何だか物凄くまずいことになっている気がする。 「ま、待って、あっ──!」 慌てて逃げようとした肩を突かれ、押し倒される。 ギシリ、とスプリングを軋ませてその上に覆い被さると、ザンザスは片手で真奈の両手首を束縛し、頭の上で固定した。 真奈の視界いっぱいに男の顔から上半身までが広がる。 薄闇の中に浮かび上がる純白のバスローブに浅黒い肌が映え、湯上がりの湿った黒髪が妙に艶っぽい。 大きく開かれた胸元からは逞しい胸板が覗いていた。 ザンザスは家光と同じく190p近い長身に見合うだけの鍛え抜かれた見事な体躯の持ち主だ。 母親の奈々に似て小柄な真奈とは文字通り大人と子供ほどの体格差がある。 真奈がいくらジタバタ暴れても、拘束している腕も身体もビクともしなかった。 「違うのっ、勝手に入ったわけじゃないの! 私にも何がなんだかわからなくて…!」 必死にそう訴えかけていると急に両手首を戒めていた手が離れ、ザンザスの顔が遠ざかった。 突如として轟くような笑い声が響き渡り、真奈はびくっと身体を震わせた。 呆然として見上げる先で、ザンザスが片手で顔を押さえて爆笑している。 「当然だ! お前みたいな小娘が気付かれずに侵入出来るような場所じゃねえ。どうせ誰かに放り込まれたんだろうが」 真奈は涙の滲んだ瞳をぱちぱちと瞬かせた。 この男は分かっていて真奈をからかったのだ。 身体からどっと力が抜けていく。 「もう…そんなに笑うことないでしょう。本当にびっくりしたんだから…」 ザンザスは鼻で笑うと、片腕で真奈を引っ張り起こした。 |