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午後の授業の後のLHRが終わり担任が出て行くと、椅子を引いて立ち上がる音や生徒達の話し声で教室内はたちまち騒がしくなる。

「あー、終わった終わった」

黒川花が大きく伸びをして言った。

並中時代からすでにかなり大人っぽい印象のあった彼女だが、高校に上がってからはよりいっそう女らしさに磨きがかかってきている。
私服姿の時など、大学生かOLと言っても通じるのではないだろうかとさえ思うぐらいだ。
特に成長具合が著しい彼女の身長と胸は、真奈にとって憧憬の対象だった。

「体育のある日はほんとかったるいわ。さっさと帰ろ」

「うん」

真奈と笹川京子が同時に頷く。
高校生になって新しい友人知人が増えてもこの三人の友情は変わらず続いているのである。

「あ、ごめん」

教室を出ようとしたところで、ちょうど外にいた男子に肩が軽くぶつかってしまった。

「あ、いや、俺もよく見てなかったから」

すまなさそうに頭を掻くその男子生徒には見覚えがあった。
同じ並中出身で、確か中学1年生の時に同じクラスだった子だ。

「B組の磯辺じゃん。なんか用?」

真奈に続いて教室を出た花にそう聞かれた少年は、「いや、その…」と口ごもった。
よく日に焼けた首までみるみる赤くなっていく。
その時、教室の中から彼の名前を呼ぶ声が聞こえてきて、一人の少女が小走りに駆け寄ってきた。

「磯辺君、迎えにきてくれたの?」

少年は照れくさそうな表情で、かろうじて「おう」と聞こえる声を発したかと思うと、少女の手を掴んで足早に去って行ってしまった。
花と真奈はやや呆然としながらそれを見送った。

「なにあれ…」

「あの二人付き合いはじめたんだって」

「はぁ?マジで?」

京子からの意外な情報に花が目を見開く。

「あいつ、ついこの間まで『女子なんてウゼェ』って馬鹿にしてたのに?」

そうなのだ。
彼は、よくいる、女子を小馬鹿にしてからかうタイプの男子生徒だったのである。
誰かと誰かが好きあっているのを見つけてははやしたててからかっていたりもした。
それ自体は小学生や中学生の男の子によく見られる現象だが、どうやら高校にきてようやく彼の未熟な精神にも革命が起きたらしい。

「ついに目覚めちゃったんだね…」

少年の変化が微笑ましく感じられて、真奈がしみじみと呟く。

「目覚めたって言っても、猿から類人猿になったみたいなもんでしょ。所詮ガキはガキよ」

「あはは…」

普段から「男は断然年上! 同学年の男子なんてガキ臭くて眼中に無し」と言いきって憚らないだけに、花の評価は手厳しい。

いつまでも教室の前に陣取っていては邪魔になるので、三人は昇降口に向かった。
ちょうど下校時間とあって、階段も下駄箱のあたりも生徒でごったがえしている。

そうして移動する間にも、花はいかに同級生の男子がガキで年上の男が魅力的であるかについて熱弁をふるった。
確かに大人の男の人は素敵だ。
まさにその年上の男とお付き合いしている真奈は、友人の話にうんうんと頷いて同意を示した。

「そういえば、真奈ちゃんの彼氏も年上なんだよね」

「そーそー、結構噂になってるわよ。イタリア人なんだって?今度紹介しなさいよ」

「う、うん…」

真奈は曖昧に笑って誤魔化した。
まさか、イタリアマフィアの暗殺部隊のボスとお付き合いしていますなんて、いくら親友でも話せない。



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