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揺れるカーテン。
開かれた窓から爽やかな風が吹き込んでくる。

目の覚めるような色をした空と海を眺めながら、真奈は思いきり伸びをした。
空は雲ひとつなく、絶好の行楽日和だ。
午前中に市が立つらしいから混雑を避けて午後から街に出掛けるのもいいかもしれない。

ここはシチリア。
真奈は連休を使ってヴァリアーの屋敷に滞在しているのだった。

寝室から隣の部屋に移動すると、直ぐに求める人物の姿は見つかった。
素肌に白いシャツを引っ掛けたザンザスがテーブルに置いたノートパソコンに向かって何やら打ち込んでいる。

「少し待ってろ」

なめらかにキーボードを叩きながらザンザスが言う。

うんと頷いて、真奈は邪魔にならないように近くの椅子に腰を降ろした。

(パソコン使えたんだ…)

腕っぷしが強いだけでなく頭もいい男なのだと知ってはいたが、こうした機器を当たり前のように使いこなしているのを見ると新鮮な驚きがあった。

旧態依然としたマフィアの世界では、未だに手書き書類がメインだというから、もしかするとこれは零地点突破の氷から解放されてから覚えた事なのかもしれない。

8年という年月はあまりにも長い。
氷から目覚めたときの周囲の変化に対する焦燥感や苛立ちはどれほどのものだっただろう。

パソコン一つとっても技術は進化し続けている。
気位の高いザンザスのことだ、恐らくは彼の言うところの“カスども”に出来て自分に出来ないなど許せなかったに違いない。
意地で練習して使いこなせるようにしたのではないだろうか。

表面上はあくまでも悠然と構えながらも、人知れず影で努力をかかさない──そういう男だと真奈は常々感じていた。

ザンザスの手が止まる。

彼が立ち上がるのを見た真奈はてっきり仕事が終わったのだと思ったのだが、ザンザスは真奈をひょいと抱き上げて椅子に戻ると、彼女を膝に乗せたまま再びキーボードを叩き始めた。

「これが終わったら朝食を持って来させる」

「うん」

真奈は白いシャツ越しに盛り上がった逞しい胸板に耳を寄せた。
力強い鼓動が聞こえる。
ちょっと切ったら盛大に血が吹き出そうだなと思いながら、目の前にある太い腕に浮き出た血管を指でなぞっていると、「くすぐってぇ」と耳を噛まれた。
でもザンザスの手は止まらない。

この男の性格上、構うのが面倒な時には遠ざけておくはずだから、こうして抱き上げられているということは、くっついていてもいいという事なのだろう。
そう思うと俄然甘えたくなってきた。



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