イタリア某所にある、深い森に囲まれた荘厳な城。 ボンゴレ・ファミリーの総本部であり、ファミリーを束ねる9代目が住まうその城には、数日前から若きボンゴレ10代目ファミリーが滞在していた。 「ダンスは必須だ」 城内のホールを一つ借りて講義中のリボーンが真奈に宣言する。 広いホールの中にはクラシックが低く流れており、講師のリボーン、助手の獄寺、そして生徒の真奈だけがぽつんと立っていた。 「毎回あるわけじゃねえが、突然踊る羽目になってもボロが出ない程度に習得しておく必要がある」 リボーンの言葉に教え子は素直に頷いた。 スパルタで知られるリボーンだが、それでも真奈に対しては優しいほうだと彼は自負している。 少なくとも、ツナにするような暴力という名の愛の鞭を振るったことは一度たりともない。 「最低でも、マズルカとワルツとポルカは仕込まねえとな」 「ワルツはスローで?それとも最初からヴェニーズを?」 「とりあえずパーティーダンスが踊れれば十分だ」 リボーンの言うパーティーダンスとは、競技用の本格的なものではなく、晩餐会などの余興として行われるダンスのことである。 上流階級の人間にとっては、ダンスは娯楽という以上に教養やたしなみの一つとして考えられてきた。 次期ボンゴレボスの身内ともなれば、ダンスぐらい踊れなくては、というわけだ。 「では、まずはワルツの歴史から……」 「それは飛ばしてステップを教えてやれ」 「そ、そうですか? じゃあ、20ページを開いて下さい」 椅子の上に座った赤ん坊の言葉を受けて、獄寺が片手に持ったテキストをパラパラと捲る。 真奈も彼に倣ってテキストを捲った。 ついでにペンも用意する。 獄寺隼人の理論指導は、まずは紙と鉛筆から入るのだ。 「一番簡単なワルツを踊る際の足の運び方、左右の順番の図が書いてありますので、それを覚えて頂きます」 「う、うん…」 真奈は真剣な表情で何とか丸暗記しようと図をじっと眺めた。 そんな彼女を見て獄寺が笑う。 「大丈夫っス。それは本当に一番簡単なやつですから。真奈さんなら余裕で覚えられますよ!」 「う、うん…」 その余裕で覚えられるはずのものが覚えられなかったらどうしようと真奈は不安になった。 何しろフォークダンスでさえ覚えるのに苦労したくらいだ。 しかも、様々な専門用語が出てくるとなると、まるっきり自信がない。 |