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沢田家光は悩んでいた。

彼の幼い娘は、どういうわけか、初めて対面させたその時からこの“親戚のお兄ちゃん”をすっかり気に入ってしまったらしく、朝からずっとザンザスと一緒にいるからである。

と言っても、煩くはしゃいでつきまとっているわけではない。
ザンザスの横に座って大人しく絵本を読んでいたり、時々彼に話しかけては、素っ気ない返事を貰ってにこにこ嬉しそうにしているのだった。

真奈は母親の奈々に似て、人見知りをしない。
だから、相手が10歳も歳上の無愛想で可愛げのカケラもない少年であっても気にせずなついているのだろうと家光は考えていた。

「ん?真奈、おねむかー?」

娘がうとうとしはじめたのを見た家光は、腕を差しのべた。

「お父さんとねんねしような〜」

が、しかし、真奈はいやいやと首を横に振った。

「お兄ちゃんとねんねする」

「なっ、なんだってーー!?」

「お兄ちゃんとねんねするの」

真奈はきっぱりとした口調で言い切った。

「そ……それはお父さんどうかと思うぞ。だってなあ……そ、そうだ、ほら、夜中にトイレに行きたくなったりしたら困るだろ?」

「ちゃんと一人でおトイレ行けるもん」

真奈はムッとした顔で父に抗議した。
どうしてお兄ちゃんの前でそんなこと言うの、と言わんばかりに柔らかな頬を染めて。

──なんてことだ!
家光は愕然とした。
それはつまり娘がザンザスを異性として意識している証拠であったからだ。

翌朝の別れの時も、真奈はザンザスにべったりくっついて中々離れようとしなかった。

「お兄ちゃん…」

「お兄ちゃんじゃねえ…ザンザスだ」

「ザンザス…」

中々は自分よりもずっと大きな少年の身体にぎゅううと抱きついた。
小さな肩が震えている。
別れるのは寂しいとその幼い身体全部で訴えている。

「おい」

低い声で呼びかけると、華奢な肩がぴくりと反応した。

「お前は俺の妻になる女だろう」

「…うん」

「なら泣くんじゃねえ」

「…うん」

真奈は涙をこらえてこっくり頷いた。
ザンザスが荒っぽくその小さな頭を撫でる。


その初恋の“お兄ちゃん”との再会は色々な意味で劇的なものだった。

大空のリングの所有者を決める闘いに相応しく、二人とも縦横無尽に空を飛び回って闘っている。

「お兄ちゃん!」

「お兄ちゃんじゃねぇ、ザンザスだ」

「ザンザス!」

「何やってんだお前らは」とリボーンに呆れられてしまったが、それはこれから始まるロマンスの幕開けなのだった。



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