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寒い、寒い、と思ったら、雪が降っていた。
しかも夜の間から降り続けていたらしく大分積もっている。
滅多にないことではあるが、このシチリアでも雪は降るのだ。
しかし、ここまで積もるのは珍しい。

少なくとも、真奈がザンザスと結婚してここに来てからは初めて見る積雪量だ。

「わぁ…!」

テラスへ続くガラス扉を開くと、眼下に一面の銀世界が広がっていた。

「何をやってる」

呆れたような低い声がして、振り返ると裸の上にガウンを着たザンザスが立っていた。
ベッドを脱け出した真奈を探しに来たのだ。

「いつまで経っても乳臭さの抜けねぇ女だな」

真奈を軽々と抱き上げて強制的に室内に連れ戻しながらザンザスがぼやく。
出会ってから十年。
もう真奈は子供ではない。
ザンザスの手でじっくりと時間をかけて色々な意味で大人の女にして貰った。
でもやっぱりこんな時は童心に戻ってしまう。

「でも、雪だよ」

「別に珍しくもねぇだろ」

確かにスキーや雪見風呂を楽しみに冬の日本に行った事もある。
でも今日は特別な日なのだ。

「はしゃいでいるのは誕生日だからか」

紅い瞳に見据えられてズバリと言い当てられ、真奈は言葉に詰まった。

ザンザスは真奈を抱き上げたままベッドに戻った。
そこに腰を下ろし、真奈を膝の上に横抱きにした状態で、枕元から取り出した小さなケースを真奈の手に握らせた。

「え……」

「開けてみろ」

優しい命令に素直に従いケースを開いた真奈は、中身を見て、あっと声をあげた。
それはザンザスの銃に施された意匠と同じ“X”の形に加工された土台に赤い石が並べられたイヤリングだった。
二つの赤いX(イクス)。

「綺麗…!私に?」

「他に誰がいる」

「有難う!着けてもいい?」

「ああ」

くすぐったいような想いで耳にイヤリングを着ける。
真奈の両耳を飾ったそれを見て、ザンザスは満足そうに唇を歪めた。

「落とすなよ」

「うん、大事にする」

ぎゅう、と腕を回して抱きつけば、逞しい腕に抱き締め返される。
この人が好きだなあと思った。
愛しい気持ちが溢れてきて、目から流れ出す。

「嬉しい」

「泣くな」

「うん」

イタリア語で愛の言葉を耳元で囁かれたら、もっと涙が止まらなくなった。
あまりにも幸せすぎて。

来年も、再来年も、ずっと、ずっと、この先一生この人といたいと思った。

頬を滑った唇が、真奈の唇に重なる。
甘い口付けに酔いしれながら、真奈はこの上ない幸せに浸っていた。

「ザンザス、愛してる」

「今更、なんだ」

とっくに知っている、とまた口付けられて、真奈は愛する夫の首に腕を回して抱きついた。


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