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尾行されている。
そう気付いたのは、迎えの車に乗り込んで大通りに出てすぐのことだった。
こんなところまで追いかけられてザンザスも大変だなあと思っていたら、

「標的はお前だ」

「えっ、わ、私!?」

「お前がザンザスに孕まされたら困る連中もいるってことだぁ」

ハンドルを握りながらスクアーロが言った。

「マフィアの世界では“血”が重んじられる。連中にしてみれば、初代の子孫といってもお前ら沢田家の一族はボンゴレの直系ではなく亜流の分家という感覚なんだろう」

だから、ザンザスの出自の秘密を知らない連中からして見れば、9代目の息子であるザンザスではなく家光の息子が10代目を継ぐのは、本家をさしおいて分家が家を乗っとるように感じられるのではないか、とスクアーロは語った。

「しかも、その“分家”の女が御曹司の子を生むとなれば、面白くねぇと感じる人間が出てきても当然だぁ。反穏健派のクソミソカスどもは特になぁ」

「そんな…」

「チッ…撃ってきやがった…!」

舌打ちしたスクアーロがハンドルを切る。

乱暴に向きを変えられたタイヤがかん高い悲鳴をあげ、真奈の小さな悲鳴をかき消した。
その拍子に勢いづいて投げ出されそうになった身体は、シートベルトとザンザスの腕に支えられたお陰でそうならずに済んだ。

「ありがとう」

「カス鮫、窓を開けろ」

ザンザスは真奈を片腕で支えたまま、開いた窓から片手を出した。
その手の平に憤怒の炎が灯ったのを見て、真奈は慌ててザンザスに縋りついた。

「ザンザス、ダメ!」

「かっ消えろ」

一足遅く、尾行していた車が炎に包まれる。
乗っていた男達が危機一髪逃げ出すのと車が灰になるのは殆ど同時のことだった。
男達は追ってくる様子はなく、真奈はほっとして力を抜いた。

「お前は甘い」

ザンザスに睨まれたが、一般市民のつもりでいる真奈としては目の前で死人が出るのは避けたいところだ。

その後は何事もなく車はホテルに到着し、ザンザスと真奈は最上階のロイヤルスイートへと足を踏み入れた。

「じゃあ、キッチンを借りるね」

「ああ」

上着を脱ぎながらザンザスが答える。
彼がリビングのソファに腰を降ろしたのを見て真奈はキッチンで作業を始めた。
あらかじめ用意しておいてもらった材料を使い、ケーキを焼く。
ザンザスのためのバースデーケーキを。

途中、退屈になったザンザスからちょっかいを出されつつも、何とか完成させることが出来た。

「誕生日おめでとう、ザンザス」

ザンザスにキスをすると、大きな手の平に後頭部を支えられて濃厚な口付けを返される。

「ケーキも味見して」

ザンザスは指で生クリームを掬い取り、真奈の口にその指を突っ込んだ。

「舐めろ」

入れられた指を仕方なく舐める。
すると、ザンザスは顔を近づけて真奈の唇を舐め、それから口内に舌を侵入させた。
熱い舌に口の中を舐め回される。

「ん、ん…」

「悪くねぇ」

くたりとなった真奈を抱き上げながらザンザスが笑う。

彼はそのまま寝室のベッドへ真奈を運んで行った。
ケーキよりも甘い好物を味わうために。


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