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少女に渡されたメニューに視線を落とした男が眉をしかめる。
当たり前なのだが甘い物ばかりが並んでいるせいだろう。

「──エスプレッソ」

「それだけ?」

「お前が食いてえのはどれだ」

「ケーキならチョコレートケーキが好き」

「ならそれを持ってこい」

「かしこまりました」

少女がテーブル席を離れた隙に、冷や汗を浮かべたオーナーがさりげなく男のもとへ向かった。
まずは挨拶をしてから、少し声をひそめて男と話し始める。
何事かと見つめている者達の前で男と話しをつけたらしいオーナーは再び店の奥へと引っ込んだ。

それから程なくして、ケーキとエスプレッソを乗せたトレイを持った少女が男が待つテーブルに戻ってきた。

「お待たせ致しました」

「おい」

「ん?」

エスプレッソのカップとケーキをテーブルに置いた少女に対し、男が指で自分の向かい側の椅子を示す。

「座れ」

「え、まだお仕事中だから──」

「オーナーに話はつけてある。いいから座れ」

少女が座ると、男はケーキの皿を彼女のほうへと押しやった。

「いいの?有難う」

ぱぁっと笑顔になった少女がフォークを握る。

「美味しいっ」

「そうかよ。そりゃ良かったな」

顔を輝かせてケーキを食べる少女の前で、男は無表情でエスプレッソを飲んでいた。

──が、しかし。
その精悍な頬が微かに緩み、鋭い目付きが和らいで、ふと愛おしげな眼差しで少女を見つめた瞬間を興味津々で二人を眺めていた者達はしっかり目撃していた。
ツンデレ……いや、俺様デレ?


結局真奈のその日のアルバイト代の倍額を出して彼女の時間を買取った男は、退店する際、彼女の好きなケーキと彼女本人をテイクアウトして帰って行った。



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