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「貴女がザンザスの新しい愛人?」

不意に耳に飛び込んできたイタリア語。
真奈がそちらを向いた途端、顔にぴしゃりと冷たい液体が浴びせかけられた。

テーブルに置かれていたグラスの水を顔面にぶちまけられたのだ、と少し遅れて気がつく。
ルッスーリアが慌てて引き返してくるのを視界の隅に認めつつ、真奈は驚いた顔で相手を見た。
ブロンドの美女が怒りに顔を歪めて目の前に立っている。
日本人でも身長があってスタイルがいいモデル体型の女性はいるが、こうして外国人の美女を間近に見ると、やはり骨格から造りが全然違うことがよくわかる。
特に胸や臀部の辺りの曲線美は羨ましいくらいだ。

水をかけただけでは飽きたらず、厭味か何かをまくしたてようと赤く塗られた唇を開いた女が、急に顔をひきつらせて口を閉じた。

「…ドカスが」

真奈の背後から聞こえた、地を這うような低い声。
振り返らなくてもザンザスが真後ろに立っていることが分かった。

「失せろ。目障りだ」

ザンザスが傲然と命じる。

「それとも、てめえの親父はこの俺の妻になる女に水をぶっかけてこいとでも命令したのか?」

女は完全に顔色を失っていた。
ザンザスの怒りを買ってしまったこと、そして、喧嘩をふっかけた相手が何者であるのかを正確に理解したのだ。

ショックで棒立ちになっている女が動かないことに苛立ったらしく、ザンザスの右手がほのかに光を帯びる。

「いいの。私なら大丈夫」

真奈はザンザスの腕に手をかけて制止した。
ただでさえ険しい顔つきを更に険しいものに変えてザンザスが見下ろしてくる。
たぶん、お前は甘すぎるとか、きっとそんな事を考えているのだろう。
でもそれは大間違いだ。

それ以上誰かが何か言う前に、真奈はおもむろにテーブルに置かれたガラス製の水差しをよいしょと持ち上げると、その中身を女に向かって勢いよくぶちまけた。

コップと大きな水差しの中身では量がまるで違う。
先ほどの真奈の比ではなく、文字通り頭からびしょ濡れになった女は、信じられないものでも見るような目で真奈を見た。
まさか大人しそうなジャッポネーゼの少女に反撃されるとは思っていなかったに違いない。

「これでおあいこだよね」

「──ぶはっ!」

にっこり笑った真奈の横でザンザスが吹き出す。
女は顔を真っ赤にして走って行ってしまった。

「凄いじゃない、真奈ちゃん! びっくりしちゃったわ」

ルッスーリアがハンカチを差し出してくる。
ザンザスも「上等だ」と不敵な笑みを見せた。

「てっきりビビって泣きそうになってやがるのかと思えば…やるじゃねえか」

「これくらい覚悟してたから全然平気。ザンザスに遊ばれた女の人に少なくとも100回は刺される覚悟が必要だってベルに聞いてたから」

「…あのカスが」

真奈が笑って言うと、ザンザスは舌打ちした。



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