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「それで、どうだった」

「ん?」

「あいつの事だから、一流のホテルの一番上等な部屋を用意してたんじゃねーか?」

リボーンが言った。

「一流のモノを知るのはいい事だ。どんどんそうしてイイものに触れさせて貰え」

“一流のモノを知れ”とは、家庭教師の有り難い格言だ。
良いものに触れ、審美眼を養えということであるらしい。

「でも、リボーン」

真奈は家庭教師を見た。
赤ん坊の姿に、見上げるほどの長身の美貌の男の幻が重なって見える。
彼女はもうこのヒットマンの本当の姿を知っている。

「いいものを知ったら、もう普通のものじゃ我慢出来なくなったりしない?」

「そういう人間もいるな」

リボーンは平然と頷いた。
向こうの部屋から綱吉の叫び声が聞こえてくるがスルーだ。
爆発音や何かが崩れる音もスルーした。
彼らにとってそれは驚いたり慌てたりする必要もないほど日常的なものだったので。
それに、本当の本当に危険が迫っているのであれば、このヒットマンはとっくに動いているはずだ。
真奈の超直感も緊急事態ではないと告げている。

「お前なら良いものの良さも、“普通”の良さも分かるだろう」

「…うーん…」

人生の大先輩でもある先生の教えはいつも難しい。
真奈にとってはスフィンクスの謎かけのような難問に感じられるものばかりだ。

真奈は綱吉がいる部屋の方角を見た。

同じ年頃の男子と比べてかなり貧弱だった少年も、リボーンのスパルタ教育のお陰で随分と逞しくなった。
まあ、勿論、急にマッチョな体型になったわけではない。
徐々にではあるものの、つくべき場所に必要な筋肉がついてきているといった具合だ。

そこまで思い浮かべて、真奈の頭の中がぱああっと光輝いた。

「うん、何となく分かった。ザンザスの胸板は、こう、ぺたぺた触ったら適度な弾力がある硬さっていうか凄く厚みがあって立派で枕にしてもらうと気持ちがいいけどツナの薄くてもちゃんと筋肉がついてる普通の胸板もいいってことだよね!」

「違ぇぞ」

「だ、だって、リボーンがさっき、どんどんイイものに触れさせて貰えって言うから!」

「そのモノじゃねーぞ」

向こうの部屋からまたツナが叫ぶ声が聞こえた。



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