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それにしても、ザンザスをノックダウンするなんて、なかなか根性のある風邪菌だ。

ザンザスもザンザスで、たぶん普通の人間ならフラフラになってしまっているだろう強力な風邪のはずなのに、多少弱っている様子はあるものの、ふてぶてしい態度は変わらない。
むしろ、風邪をひいたことをからかったせいでザンザスの怒りを買い、危うく星になりかけたスクアーロのほうが重傷かもしれない。
毎度毎度、暴力で報復されるのが解っていてやらかしてしまうスクアーロは、本人が無自覚なだけで実はマゾッ気があるんじゃないだろうかと真奈は密かに思っている。

「…いつもこんな事をやってんのか」

慣れていると言いたいのだろう。
ザンザスの言わんとする事を読みとって真奈は頷いた。

「うん。ツナやうちの小さい子達がお熱の時にはいつも看病してあげてるよ」

「カス共と一緒にすんな」

「そうだね。こんな大きな男の人の看病をするのは初めて」

真奈の父である家光は、家では酒をかっ食らって下着姿のまま大の字で寝たりする手のかかるオッサンだが、妻である奈々が嬉々として彼の世話を焼くので、娘の真奈の出番はなかった。
それでなくとも留守がちな家光が自宅にいる時には、どうにも邪魔出来ない空気があるというか、ラブラブっぷりを見せつけられる羽目になるのだ。
お父さんの事はお母さんに任せておくのが一番だと、真奈は早々に悟っていた。
それと同時に、自分もいつか誰かとあんな風にお互いを大切に想いあえるようになれたらいいなと憧れを抱いていた。

「ザンザス、寒くない?」

そっと尋ねると、無言のまま毛布が捲られる。
小さく笑ってそこに潜り込めば、すぐに大きな身体に抱きこまれた。

「せっかくのお誕生日なのに残念だったね…」

「この程度なら今日中に治る」

「熱が下がっても暫く安静にしてなきゃダメだよ」

「お前のところの甘ったれたガキ共と一緒にするなと言ったはずだ」

「昔からそうしてきたの…?」

「そうだ」

分かりきった事を聞くなと断言された言葉に胸が痛んだ。

誇り高いこの男のことだ。
誰かに頼るとか甘えるなどということはしたくなかったのだろう。
手負いの獣がそうするように、誰も頼らず、ただじっと耐えて苦痛が過ぎ去るのを待っていた彼の姿が容易に思い描けた。

あるいは、そうして独りで耐え抜いて見せる事こそが、敬愛する父の自慢の息子として──次期ボスとして相応しい行為なのだと考えたのかもしれない。

もしそうだとしたら、まだほんの子供の頃から、なんて孤独な生き方を選んできたのだろう。
だが、彼は真奈の哀れみなど必要としていないはずだ。
可哀想などと感じるのは、彼にとっていっそ侮辱に等しい。

たとえ脚や手が折れ、内蔵がズタズタになろうとも、この人はきっと何度でも立ち上がる。
命の炎が完全に燃え尽きるその時まで、がむしゃらに運命に抗い続けるのだろうと真奈は思った。


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