「見事な紅葉ですね」

「本当、凄く綺麗」

温泉郷に着いたのは昨夜のこと。夜の九時を回った頃だった。
夕食を食べてから来たので、着いてすぐに入浴して、それからたっぷり時間をかけて愛し合った。
そうして今朝、部屋付きの露天風呂を堪能しているところだ。

温かい湯に肩まで浸かりながら紅葉している木々を眺める。
こうしていると日々の疲れが癒えてゆくようだった。

「そろそろ上がりましょうか」

「そうですね」

露天風呂を出て、タオルで水分を拭き取ってから浴衣に着替える。さらりとした肌触りが心地よい。

私にはこれから成さなければならないミッションがあった。

「赤屍さん」

バッグの中から取り出したある物を後ろ手に持って、座椅子に座っている赤屍さんに歩み寄る。

「お誕生日おめでとうございます」

「ありがとうございます。そういえば今日でしたね」

私の誕生日は何週間も前から準備してお祝いしてくれるのに、自分の誕生日には無頓着なあたりが赤屍さんらしいと思った。

「あの、これ、プレゼントです」

後ろ手に持っていたプレゼントを差し出すと、赤屍さんは少し驚いたような顔をしてから優しく微笑んだ。

「ありがとうございます。とても嬉しいですよ」

「本当に?」

「ええ。貴女から頂いたものが嬉しくないはずがないでしょう」

中身を見ても?と尋ねられたので頷く。
赤屍さんは丁寧に包装紙を剥がして中身を取り出した。

「ネクタイピンですか。ありがとうございます。大切に使わせて頂きますね」

喜んでもらえて良かった。ほっとして緊張していた身体から力が抜けていく。
赤屍さんが両腕を広げたので、素直に身を委ねると、膝の上に抱き上げられてぎゅっと抱き締められた。

「プレゼントももちろん嬉しいのですが、こうして貴女が私と共にいて下さることが何よりも嬉しいのですよ」

「赤屍さん……」

「この先、何年経っても私の側にいると約束して下さい」

「約束します。ずっと一緒にいます」

「ありがとうございます。愛していますよ、聖羅さん」

「私も愛しています」

赤屍さんの首に腕を回して抱き締め返しながら、私は来年も再来年も、ずっとずっとこうしてお祝い出来たらいいなと思っていた。

お誕生日おめでとうございます、赤屍さん



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