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初めて器用貧乏という言葉を知ったとき、これほど自分にぴったりな言葉はないと思った。

小さい頃から、何をやってもすぐにコツを掴めてそこそこ上手く出来た。
勉強も運動も、ずっと上の中くらいの成績をキープし続けている。

でも、それだけだ。
トップにもNo.2にもなれない。
そこまでの能力はない。
あくまでも『そこそこ出来る』レベルからは抜け出せない。

コツを掴むのが上手く、飲み込みが早いという点では周助も同じだったが、彼は私と違って正真正銘の『天才』だった。
本人はそう呼ばれるのを嫌がるけど、これはもう事実なので仕方がないと思う。

彼が自分自身の才能に天狗になることなく常に努力している事は知っている。
その結果が評価に繋がっているのは間違いない。
間違いないけれど、やはり彼が天才であることも事実なのだ。
努力すれば誰もが望む結果を手に入れられるわけじゃないのだから。

ただし、周助は勉強に関しては適度に手を抜いていると思う。
本気になれないだけで、たぶん彼を熱くさせる何かがあれば試験でもオール満点が取れるだろう。

本気になれない。

それが一番の問題だった。どんなに努力しても思うような結果が出せない人間にとっては、

「そんなこと言って、本当は誰よりも一番になりたかったんじゃない?」

周助の言葉を耳にするなり、私は走り出していた。
隣の教室に駆け込む。

「友ちゃん!」

ボロボロ泣いている私を見て、友ちゃんはギョッとした顔になった。

「私、友ちゃんの一番になりたい!!」

「当たり前でしょ。なまえは一番の親友だよ。むしろなまえの一番じゃなかったら私が泣く」

「なまえ」

周助から隠れるように友ちゃんの後ろにさっと身を寄せると、彼は何故か傷ついたような表情になった。
傷ついたのは私なのに。

「ちょっと、ちゃんと説明しなさいよ、不二!」

「うん…実は…」

周助が私とのやり取りを話して聞かせると、友ちゃんは深々とため息をついた。

「あのねぇ…発破をかけたつもりだったんだろうけど、完全に逆効果だから。アンタ達体育会系の男どもと一緒にしないでよ」

腰に手を当てた友ちゃんが勇ましく周助にお説教をかましてくれる。

「普通に考えて、そんなボロくそに言われた相手に泣きつくわけないでしょ」

「まあ…そうだけど…」

周助は困ったように笑うと、一歩近づいてきた。

「来ないで!」

「ごめん、なまえ。僕が悪かったよ」

「なまえ、この男はあんたを泣かせて自分で慰めるつもりだったのよ」

「意味がわからないよ…」

「本当にごめん。もう意地悪しないから許してくれないか」

《許しちゃダメ!》

頭の中でそんな声が聞こえた気がしたが、私は結局のところ、この幼なじみに弱いのだ。

「二度といじめない?」

「善処するって誓うよ」

何だかいいように言いくるめられている気もするけれど、周助の懇願に私は負けてしまった。

「…今回だけだからね」

「ありがとう。大好きだよ、なまえ」

ほんと調子がいいんだから。

大好きと言われて小躍りしたいくらい喜んでしまったのを悟られないように、私は精一杯こわい顔で周助を睨み付けた。


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