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気が付いたら真っ暗な闇の中にいた。
何故か身動きがとれない。

「やだ…なにこれ!」

無理矢理身体を動かそうとすると、ガサガサと音がした。
どうやら袋か何かの中に入れられているらしい。
状況がわかった途端パニックに陥った。
可能な限り暴れて何とかここから出ようともがく。

「誰か!助けて!」

「まだ生きていましたか」

知らない男の人の声がしたかと思うと、急に視界が開けた。
刃物か何かで袋が切り裂かれたのだとわかった時には、身体が自由になっていた。
その場にへたりこむ。

「大丈夫ですか?」

「はい…ありがとうございます」

そして気が付いた。
自分が何も身に纏っていないことに。

「きゃっ…!?」

身体にふわりと黒い布が掛けられる。
それは目の前の男性が着ていたコートだった。

「貴女は若い女性を攫ってその肉を売買するブローカーに誘拐されたのですよ。もう少し遅ければ、悪趣味な金持ちの食卓に並べられていたでしょうね」

頭から音をたてて血の気が引いていく。
自分は食肉として出荷されるところだったのだ。
あまりに非現実的な犯罪に巻き込まれた恐怖で身体の震えが止まらない。

「そこに誰かいるのか!?」

曲がり角から現れた作業着を着た中年男性が声を張り上げる。
ヒュッ、と空気を切る音がしたかと思うと、彼はそれ以上一言も発しないままその場に倒れ伏した。
生きているのか死んでいるのか、ぴくりとも動かない。

「もう大丈夫ですよ。安全な場所まで私が運んで差し上げましょう」

「あの…あなたは?」

「私は運び屋の赤屍蔵人と申します」

赤屍はそう言ってなまえの身体を抱き上げた。

その後、赤屍の仕事仲間だという男女と合流し、大きなトラックの中に乗り込んだ。

トラックの荷台には簡易シートが取り付けられていて、赤屍はなまえを抱いたままそこに腰を下ろした。

「私に掴まっていて下さい」

「あの、でも」

「シートベルトなどという物はありませんからね」

恐る恐る赤屍の首に腕を回す。
膝に抱き上げられているだけでも恥ずかしいのに、これはつらい。

「赤屍、出すぞ」

「安全運転でお願いします」

運転席からかけられた声に赤屍が返事をかえすと同時にエンジンがかけられる。
トラックはその巨体を震わせて静かに発進した。

「その子、どうするつもり?」

「安全な場所まで運んで差し上げようと思いまして」

「でも、その子の家には今頃ブローカーの手の者が目をつけてるかもしれないわ」

「ええ、ですから安全な私の家にお連れしようかと」

「えっ」

驚いたなまえが声をあげると、赤屍は宥めるようにその背を撫でた。

「今、お聞きになっていた通り、貴女の家に帰るのは危険です。安全が確保出来るまでの間、私が責任を持って面倒を見させて頂きますよ」

「でも…そんな」

「まずは着る物が必要ですね。卑弥呼さん、お願い出来ますか」

「依頼なら仕方ないわね」

「えっ、えっ?」

どんどん話が決まっていってしまっている。
どうしたら良いのだろう。

ミラー越しに運転手と目があう。
いかつい顔を一瞬気の毒そうに歪めた男は、しかし、すぐに目を逸らした。

「大丈夫ですよ。何も心配はいりません」

赤屍が優しく微笑む。

「安全な場所まで運んで差し上げると約束したでしょう?」

この世で一番安全な場所。
それは不死身の魔人の棲みかだ。


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