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身体にかかる重みを感じて目が覚めた。
振り返らなくてもわかる。
背後にいる降谷さんの腕がお腹に巻き付いているから。
降谷さんが、私を抱きしめて眠っている。

自分のものではない体温に包み込まれることがこんなにも心地よいなんて、彼と結ばれるまで知らなかった。

このまま彼の重みと体温を感じたまま、ずっと微睡んでいたい。

「……ん……」

微かな声を漏らした降谷さんが、私の髪に頬を擦り付けるようにして身じろぎし、ふあぁとあくびをした。
いつも隙のない高潔な人の、こんな気の抜けた姿を見られるのは自分だけなのだという誇りと優越感。
それをじんわり味わっていると、後ろから寝起きとは思えない明瞭な声が聞こえてきた。

「おはよう、なまえ」

「おはようございます降谷さん」

「“零さん”」

「だめです。恥ずかしい」

「来月には君も降谷になるのに?」

甘い声音に赤面する。
そうだ、来月にはもう私も降谷の姓を名乗ることになるのだ。
まだ信じられない。
出来すぎた夢のようで。

「顔を洗ってきます」

「ダメだ。もう少しだけ」

「朝食遅くなっちゃいますよ?」

「今日は俺が作るよ」

だから、もう少し。
とねだられて、私は身体の向きを変えた。
正面から彼に抱きつく。

「朝から大胆だな」

「たまには甘えさせて下さい」

フ…と笑った降谷さんが私の額にキスを落とす。

「いつもすまない。忙しくて寂しい思いをさせてしまって悪いと思っている」

「いいんですよ。降谷さんはそれで。お仕事大好き、『俺の日本』な降谷さんのことが好きなんですから」

「甘やかされているのは俺のほうか」

苦笑した降谷さんにぎゅうぎゅうと抱きしめられた。
苦しいけど幸せだ。

「お仕事頑張って下さいね」

「ああ。君もこの国も俺が守ってみせる」

頼もしい言葉に、誇らしい思いでいっぱいになった。

「愛してます、降谷さん」

「俺も愛しているよ、なまえ」

朝からこんなイチャイチャしていていいのだろうか。
たまにはいいよね。うん。

いつも忙しい人だから、こんな朝には普通の人のような幸せを味わってほしい。
組織が壊滅したと言っても、まだ残党狩りや雑務が山のように残っているのだから。

「そういえば、赤井さんからお祝いを頂きました」

「捨ててくれ、と言いたいところだが、御返しはきっちりしておかないとな」

赤井さんと降谷さんの関係も変化した。
彼らにはお互いに話し合う機会が必要だったのだろう。
亡くなった“彼”を偲んでスコッチを酌み交わしたと聞いた時は私まで泣いてしまいそうになった。

今の降谷さんは親友の死を受け入れて更に強靭な精神を手に入れた、名実ともに公安のエースだ。

私もそれに相応しく、とは思うのだが、なかなかそうもいかない。
日々精進の毎日だ。

「さて、そろそろ起きるか」

「朝ごはんはサンドイッチがいいです」

「了解」

最後にお互いの顔を見合わせて笑いあってから、私達はベッドから起き上がった。

今日も輝きに満ちた一日が始まる。


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