悪夢の海を泳ぐように、闇夜を裂いて走る密室の中を逃げ回る。 「いやぁぁああっっ!!」 狭い列車の通路はほんの数分の間に地獄と化していた。 「来ないでッ!」 バラバラに斬り刻まれた乗客の肉塊を踏みしだきながら、聖羅は必死で走り続ける。 「クス……」 思いのほか近くで聞こえた独特の笑い声に、鼠をいたぶる猫を思い浮かべて、喉からまたもや悲鳴がほとばしった。 どうしてこんな事になってしまったのだろう? ほんの少し前までは、友人達と一緒に旅行を楽しんでいたはずなのに……── 隣りで笑っていた友人の変わり果てた姿を悼む余裕すらなく、今はただ細い通路を駆けていく。 「逃げても無駄ですよ、聖羅さん。もうわかったでしょう?私は貴女を離さない」 いっそ、優しいとさえ言える囁きはすぐ背後から。 捕まえようと思えば捕まえられる距離のはずなのに。 愛を囁きながら追いかけてくる死神。 次々と車内に乗り合わせた人々をメスで惨殺しながら、赤屍は美しく微笑んでいた。 血塗れの美貌がせまって来る。 先頭車両のドアを開けた途端、聖羅は背後から伸びてきた腕に抱き締められた。 「 ほ ら、 捕 ま え た 」 それは終わりの始まり 悪夢(ゆめ)なら覚めてと切に願う聖羅を乗せたまま、列車はまだ止まらない |