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肉に異物が食い込む痛みを感じたのは最初だけ。
後はただ、わけのわからない感覚にすすり泣いた。


「…ふ……ぅっ…」


首筋に深々と牙を突き立てたまま、ちゅるちゅるピチャピチャと淫らな音をさせて血をすすっていた男が、ふと顔を上げる。

ずるりと牙が引き抜かれる感触に小さく躯が跳ねた。
優美な仕草で唇についた血を舐め取ると、男は聖羅に口付けた。
宥めているつもりなのか、ゆっくりと舌を絡める甘いキスを与えながら、後頭部に回していた手で、幼子がぐずるような泣き声を漏らす聖羅の髪を優しく撫でる。


「怖がる事はありません。力を抜いて私に全てを預けてしまいなさい。……そうすれば、楽になりますよ」


そう囁かれ、優しく揺さぶられると、深々と貫かれた下肢が快楽に引きずられるままに酷くうずいた。


「クス…ほら、躯は快楽に正直だ。何も考えずただ楽しめば良いのですよ、聖羅さん」


男が腰を動かすたびに、何度も何度も胎内に注がれた体液が腿を伝ってシーツに染み込んでいく。
泣き声をあげて大きな男の体を押し退けようとするが、逆に先程よりもきつく抱きしめられた。密着した体が擦れて汗と付着した体液でぬめる。


「まだです。私の全てを注ぎ込むまでは許さないと言ったはずだ……逃げようとするなんていけない子ですね」


ギチ…ヌチュ、と接合部がたてる音に目眩がする。
いや、血を失ったせいで貧血を起こしているのかもしれない。


「聖羅…愛していますよ…」


番(つが)いの男女が行う生殖行為ではないはずなのに、男は執拗に聖羅の愛を求めた。
いや、思えば、初めから求愛されていたのだ。
しかし異形の種族に対する恐怖から、聖羅は男の愛の言葉を拒絶し、男から逃れようとそればかりを考えていた。
そして、男はそんな聖羅の必死の抵抗を押さえ込み、強引に行為を進めたのだった。
諦めろと脅し、大丈夫だと宥め、愛していると懇願する。
男は怯えきった聖羅をあの手この手で宥めようとした。


「貴女の血も身体も穢された。もう、元には戻れませんよ」


だから私を愛してしまいなさい。
そう囁く男の声は酷く切ない。


「何故わからないのですか? 私は貴女が欲しいだけなのですよ」


血を吐くような声音に、聖羅は初めて男の眼を正面から覗き込んだ。
奈落のように昏い瞳の中に、血の色に似た光彩が沈んでいる。

美しい、と思った。

何故、彼を恐ろしいなどと思っていたのだろう?
こんなに美しく、愛に溢れた存在なのに。

唇を求められて、おずおずと応えるように男の首に腕を回すと、彼は嬉しそうに微笑んだ。
貪るような口付けから、ようやく想いが通じた事に対する歓喜の情が伝わってくる。
舌を絡めながら男は再び激しく聖羅を責め立て始めた。
今度は聖羅も拒まず素直に快楽を受け入れる。
男の巧みな技巧に溺れ、深く激しい愛情に溺れる。
自分に縋りついてくる聖羅を、彼は愛おしげに抱きしめた。


「愛しています、聖羅……私を愛してくれますか…?」


胎内を犯されながらの囁きに、夢中で身をくねらせながら、こくこくと頷く。
男が浮かべた嬉しそうな微笑は、どこか狂気を思わせる禍禍しい美しさを湛えていた。



魔物に食われる以上に恐ろしい事がある。

それは、その魔性の瞳を覗き込んでしまう事だ。


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