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水曜日。
寒い寒いと思っていたら、案の定、最強の寒波が襲来していたらしい。

ワイドショーやニュース番組で繰り返されるお決まりの文句を聞きながら焼きたてのパンを齧っていると、赤屍がスープを掬って言った。

「聖羅さん。今度の週末、別荘に行きませんか」

「別荘?」

「ええ。以前も行った事があるでしょう。あの時は春でしたが、今の季節も紅葉が見事でなかなかですよ」

──週末……

聖羅は悩んだ。
赤屍が覚えているかどうかわからないが、今度の週末には彼の誕生日がある。
今年は家でご馳走とケーキでお祝いしようと考えていたのだ。
まあ、材料や何かは持って行けばいいし、確かに、都会の喧騒を離れて静かな湖畔のコテージで二人きりで過ごす誕生日というのもロマンチックではある。

「気が進まないのでしたら無理にとは言いませんが」

「あ、ううん、そうじゃないんです」

少しだけ迷ってから、聖羅は笑顔を返した。

「行きましょう、別荘」

決めてしまえば単純なもので、直ぐにワクワクしてきた。
赤屍の言葉によると紅葉が見事らしい森の中、あのコテージで赤屍と過ごす。楽しい週末になりそうだ。

「でも、赤屍さんは大丈夫なんですか?」

「仕事の事でしたら問題ありません。今度の週末は連休でしょう?貴女とゆっくり過ごそうと思って、随分前から予定は空けてあります」

クス、と。
美しい弧を描く唇から漏れ出た笑みは、非常に妖しく、意味深なもので。

「今から楽しみですよ。実に、ね……」

「…壊さない程度にお願いします」

「ご心配なく。こう見えて私は医者ですから」

それはつまり無体を働く気満々ということか!
性欲なんて無縁のものと言わんばかりのストイックさと、それとは裏腹の淫靡な気質を併せ持つ男は、それはそれは愉しげに微笑んでみせた。
そんな時の顔は実に魅力的なのだが、はっきり言って恐ろしくもある。

医者ならナニをしてもいいと思ったら間違いですよ、赤屍さん…
とは思っても、とても口には出せない聖羅だった。


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